詩的で妖艶な描写が織りなす2つの迷宮に、きっとあなたも迷い込む
「線の迷宮〈ラビリンス〉」と題し、線の魅力と可能性に迫るシリーズ展を開催してきた目黒区美術館。第3回目となる本展では、過去と現代のはざまを独自の視点で捉える画家・齋藤芽生の絵画世界と、19世紀植物図鑑の名作《フローラの神殿》に焦点をあて紹介する。
齋藤芽生は、1973年東京都生まれ、現在東京藝術大学准教授として教鞭をとる傍ら、自身の作品も精力的に発表している。失われゆく情感や風景、奇妙で寓話的な場面など作家独特の世界を、細部まで隙を見せない非常に繊細な筆致で、しかし鮮烈に描き切る齋藤。その作品には何か呪術的な力が宿っているようにも見える。
そんな齋藤にも影響を与えたという《フローラの神殿》とは、医師で編集者のロバート・ジョン・ソーントンが、博物学者カール・フォン・リンネの雄しべと雌しべによって植物を分類する方法に感銘をうけ、19世紀に刊行した植物図鑑の名作だ。背景が無地となることの多い植物図鑑には珍しく、急峻な山岳や渓谷、古城など、趣向を凝らした世界各地の風景が描写されており、28種の花々の堂々たる姿が物語性を持って咲き誇る。
第1章では、齋藤が大学2年時に手がけた作品《毒花図鑑》(1993年)、そして大学4年時の卒業制作以来、初の展示となる《日本花色考》(1995年)および、これらの作品群を展開させた《徒花(あだばな)図鑑》(2008年)で構成される。ものごとを細やかに観察し、そして系統だてて分類する《フローラの神殿》のような図鑑形式を取りながら、花に託して描かれているのは、繊細な人間の心のニュアンスだ。
第2章では、団地をテーマにしたシリーズから、《晒野団地四畳半詣》(2006年)などを展示。画一的な窓枠の奥に潜む人々の気配を描き出す作品は、かつて子ども時代を過ごした都市郊外の団地の記憶と、後にその故郷を再訪した経験をもとに描かれた、作家自身の表現の原点でもある。
第3章では、近作《密愛村V・W》(2011・16 年)、《獣道八十八号線》(2011年)、《野火賊》(2015 年)、《暗虹(あんこう)街道》(2018 年)を紹介。日本人のマイホームやレジャーへの憧憬の産物が、廃棄できない「時代の遺物」と化していく光景を捉えた作品には、現代に投げかける、作家独自の視点を見ることができる。
希少な花々の壮麗な姿と、齋藤芽生の叙情的な物語。2つの美しく妖艶な描写が織りなす迷宮に、きっとあなたも迷い込む。
展覧会名 | 線の迷宮〈ラビリンス〉V 齋藤芽生とフローラの神殿 |
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会期 | 2019年10月12日(土) 〜 12月1日(日) |
休館日 | 月曜日(ただし10月14日、11月4日は開館)、10月15日(火)、11月5日(火) |
時間 | 10:00〜18:00 ※入館は閉館時間の30分前まで |
会場 | 目黒区美術館 目黒区目黒2-4-36 |
観覧料 | 一般 800円、高大生・65歳以上 600円、小中生以下無料 |
公式サイト | https://mmat.jp/ |
問合せ | 03-3714-1201 |
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