奈良原一高のスペイン――約束の旅

こんな写真も撮っていたのか!
戦後日本写真界の巨匠が心惹かれたスペインの街角

人間が生きる条件とは何かを思索しながら、戦後日本の新しい写真表現を切り開いた奈良原一高(1931〜)。本展では、これまでほぼ取り上げられることのなかった1960年代のシリーズ《スペイン 偉大なる午後》から120点を厳選。同時期の対照的なシリーズ《ヨーロッパ・静止した時間》の静謐さをたたえる15点も含め、奈良原の「約束の旅」の軌跡をたどる。

経済成長とオリンピックに日本が沸いていた1962年から65年、若き奈良原はそこから距離を置くように、ヨーロッパで自らの表現を問い直す旅に出た。帰国後生まれた2つの写真集のうち、つくりこまれた重厚なイメージが展開する《ヨーロッパ・静止した時間》が高い評価を得たのに対し、闘牛や祭り、村の暮らしといった、紋切り型のスペインのルポルタージュに見える《スペイン 偉大なる午後》は、今日に至るまで本格的に検証されてこなかった。しかし、人々の生きざまへの共感と、歴史や文学、美術をめぐる思索に裏打ちされた類まれな想像力とが生み出した本作には、奈良原とスペインの濃密な時間が深く刻み込まれている。

第1章「祭り」は、南部アンダルシアで踊りに興じる若者の姿も含め、熱気をそのまま写し留めたような作品が魅力的だ。第2章「町から村へ」では、奈良原がとらえた味わい深い村や人々の佇まいを紹介。ロードマップを手に、北から南まで自らの車で踏破した者にしか出合えない瞬間がそこにはある。第3章「闘牛」は、驚くべき回数にわたって立ち会った闘牛の写真から、奈良原が最もこだわった「舞い」のイメージをクライマックスに構成する。
 そして、名作《ヨーロッパ・静止した時間》の重厚で静謐な世界感からは、奈良原の写真表現の多彩さを改めて実感できるはずだ。

東京での展覧会はほぼ半世紀ぶりとなる、《スペイン 偉大なる午後》に注目した本展。戦後日本の写真表現を切り開いた巨匠の、さまざまな一面を再発見する機会となりそうだ。

奈良原一高《フィエスタ セビーリャまたはマラガ》〈スペイン 偉大なる午後〉より 1963-65年
奈良原一高《偉大なる午後 パンプローナ》〈スペイン 偉大なる午後〉より 1963-64年
奈良原一高《偉大なる午後》〈スペイン 偉大なる午後〉より 1963年

奈良原一高《バヤ・コン・ディオス コルドバ》〈スペイン 偉大なる午後〉より 1963-64年
奈良原一高《塔 セゴビア》〈ヨーロッパ・静止した時間〉より 1963-64年
開催概要
展覧会名 奈良原一高のスペイン――約束の旅
会期 2019年11月23日(土・祝)〜2020年1月26日(日)
休館日 月曜日(ただし、1月13日は開館)、12月29日(日)〜1月3日(金)、1月14日(火)
時間 10:00〜18:00 ※入場は閉館時間の30分前まで
会場 世田谷美術館
世田谷区砧公園1-2
入館料 一般 1,000円、65歳以上・高大生 800円、小中生 500円
公式サイト https://www.setagayaartmuseum.or.jp/
問合せ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)
2019年11月更新