大正生まれのおばあちゃん画家・塔本シスコが教えてくれた
何ものにもとらわれない、自由な創作の喜び
50代半ばから、団地の四畳半をアトリエに、絵画表現の既成概念にとらわれない絵を描きはじめ、91歳で亡くなる前年まで精力的に制作を続けた塔本シスコ(1913〜2005)。これまで、あまり広く知られていなかったシスコ・ワールドを、200点以上のかつてない規模の作品群で紹介する展覧会が実現。
塔本シスコは、1913年、現在の熊本県八代市に生まれる。結婚後2子をもうけるが、1959年に夫が急逝し、しばらくは体調不良のために静養の日々が続く。1961年、48歳の時には脳溢血で倒れ、このリハビリテーションのために石を彫りはじめ、1966年、53歳のある日から、大きなキャンバスに油絵を描き始める。1970年には、長男で画家の賢一と同居するために大阪に移住し、制作はますます旺盛さを増す。2001年には貧血で倒れたことをきっかけに、認知症を発症するが、「私は死ぬまで絵ば描きましょうたい」と、亡くなる前年の2004年まで制作を続けた。生涯にわたって、少女のような純粋さを保ち、自身の喜びと夢を制作の源泉にしていた塔本シスコは、2005年に91歳の人生をとじた。
4畳半の自室をアトリエとして、まるで絵日記のように次々と自身の体験を描いたシスコの絵画世界は、何ものにもとらわれない、彼女の胸中に宿る喜びや夢があふれ出てくるもので、時空を飛び越え、しばしば、子どもの頃の想い出もモティーフとなって現れ、身近な親族や、散歩でよく会う名もしらぬ人までが登場する。また、とりわけ植物を描いた作品では明るく鮮明な色彩があふれ、どの色も決して単調に塗られることなく、隣り合う色同士が響き合うように工夫が凝らされている。これには、結婚した頃から、暮らしのなかで植物や小さな生き物を大切に育ててきた彼女の人柄がよく表れている。
熊本時代にはどこか抒情性を帯びていた画風が、70代には多彩で奔放な構成となり、盛った絵具が凹凸を呈しちょっと奇妙で愛しい“シスコ・ワールド”が開花。そして、80代になっても制作意欲は衰えず、家族に「また新しかキャンバスを持って来てはいよ」と言っては、作品を描き続けた。
絶筆は、力強く輝く満月《シスコの月》。初期から不思議と描き続けたモティーフで、それは何ものにも媚びずに生きた、シスコの生命の煌めきそのものかもしれない。
展覧会名 | 塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない! 人生絵日記 |
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会期 | 2021年9月4日(土)〜11月7日(日) |
休館日 | 月曜日(ただし、9月20日は開館)、9月21日(火) |
時間 | 10:00〜18:00 ※入場は閉館時間の30分前まで |
会場 | 世田谷美術館 1階展示室 世田谷区砧公園1-2 |
入館料 | 一般 1,000円、65歳以上・高大生 800円、小中生 500円 ※日時指定制 ※詳細は公式サイトをご確認ください |
公式サイト | https://www.setagayaartmuseum.or.jp/ |
問合せ | 050-5541-8600 (ハローダイヤル) |
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