布、米、銅銭、小判、紙幣…お金から辿る日本の歴史

日本銀行金融研究所 貨幣博物館(三越前)

  • 2016/02/18
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日本銀行金融研究所 貨幣博物館

江戸時代に小判を鋳造した金座の跡地に建つ、日本銀行本店。隣の分館には、日本のお金の歴史を紹介する貨幣博物館がある。本物の金貨、銀貨などが並ぶ展示は時系列で分かりやすく、校外学習や大学のゼミなどの利用も多い。
 コレクションの中核をなすのは、古貨幣収集家・研究家であった田中啓文(1884〜1956)の10万点もの資料。戦火による喪失を避けるため、1944(昭和19)年に日本銀行に寄贈された。1947(昭和22)年、金銀貨がGHQによる接収を受けそうになるが、文化財として公開を条件に免れた数奇な運命を持つ。

年表から始まる各時代の展示。古代では、『日本書紀』に記載のある無文銀銭や富本銭のほか、本格的な貨幣流通を目指して発行された和同開珎が見もの。中世は、11世紀頃まで貨幣代わりに使われていた米、絹、布から、中国との貿易で流入した渡来銭主体の経済へ移行。年貢を納める際にも銭貨が使われるようになった過程を解説している。歴史の流れを説明するだけでなく、平城京の右大臣の給料が和同開珎にすると309,070文分であることや、室町時代の米1升が渡来銭8〜10文だったことなど、当時の暮らしもピックアップされており、遠い時代のお金でも身近に感じられる。バリアフリーを意識した低めの展示ケースには、子ども向けの説明文や補足トピックが書かれたカウンターが併設。メモを取るテーブル代わりにもなって便利だ。

目玉は、安土桃山・江戸時代。豊臣秀吉がつくらせた天正大判は、なんとワラジ大サイズ。徳川家康の遺金と考えられている分銅型の金塊「分銅金」も見逃せない。細かな文様が施され、煌びやかで精巧な造りはため息もの。江戸時代の両替商が使っていた天秤、分銅、千両箱、看板、そろばんなども展示されている。天正大判、分銅金、千両箱はレプリカで重さ体験も可能だ。約20kgある千両箱は気合を入れないと持ち上げられない。
 明治以降は、「円」の導入と日本銀行券の流通が中心に。1871年に発行された20円金貨は精巧な技術で龍が彫られた貴重なもの。1881年に政府が発行した改造紙幣は、西洋風の神功皇后が描かれており、インパクトがある。最初の日本銀行券「大黒札」、裏面の印刷を省いた200円券(裏白券)などの紙幣とともに、風景や世情を風刺した錦絵や当時の物価なども展示されている。

企画展によっては展示されない時もあるが、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、錫など貨幣の原材料となった金属、坩堝(るつぼ)、極印といった製造道具などを解説した「お金をつくる技術」、財布、貯金箱、すごろく、包銀などが展示された「暮らしの中のお金」も、歴史とは違った視点で眺められて面白い。
 東京駅から徒歩圏内で、出張や旅行のついでに立ち寄る人も。無料ガイドツアーに参加して、より深く学ぶのもオススメだ。
 その時を生き抜いた人たちの暮らしを体現する紙幣や貨幣。目の当たりにすることで、今のお金への見方も変わるかもしれない。

和同開珎古代の銭貨「和同開珎」。本格的な流通貨幣として708年に発行された。当初は銀銭、銅銭があったが、710年に銀銭の使用が禁止され、銅銭に一本化されている。1文で平城京の労働者の1日分の賃金に相当したという。
丁銀延べ棒のような銀貨「丁銀」。重さを計って用いたため、おつりを出さないために、一部切り取ったものや端数を合わせるための豆板銀が生まれた。世界遺産で知られる石見銀山で製造した石州銀などは、輸出もされている。
山田羽書17世紀初頭に発行された日本初の紙幣「山田羽書」を皮切りに、多くの藩が藩札を発行。当時から透かしや隠し文字など偽造防止策が講じられていた。
分銅金有事に備えて備蓄した金塊「分銅金」。徳川家康の遺金として、尾張徳川家に相続されたと考えられている。現存する5種類のうち、4種類を所蔵しているのは同館のみ。どれも金の品位(含有率)約95%、重さ約375g。菊、布目など細かく施された文様が美しい。
江戸時代の小判と一分金江戸時代の小判と一分金。改鋳の度に金の品位(含有率)は増減しており、徳川家康の時代につくられた慶長小判が84%なのに対し、財政難だった徳川吉宗の時代につくられた元文小判は66%と低くなっている。
古代、中世、近世、近代の各時代で当時の貨幣価値古代、中世、近世、近代の各時代で当時の貨幣価値を例示。1両で買えたものとして、農産物や身の回りの品が書かれていて分かりやすい。上級武士が金1両できせる筒1本、下級武士は5文でいわし1匹など、買い物記録も臨場感がある。
古代から江戸時代まで、銭貨は鋳型でつくられた。取り出した直後は、枝のような外見から枝銭と呼ばれる。切り離した時にできるバリ(出っ張り)を、四角い穴に四角い棒を通して銭が回らないようにしてから、ヤスリで削った。
各時代のお金を使った体験コーナーは子どもだけでなく、大人にも人気。お金を示す貝偏の漢字当てクイズ、銭さし一貫文(1,000文)・天正大判・分銅金・千両箱の重さ体験、若狭小浜藩札の透かしと、陸奥盛岡藩札の隠し文字などに挑戦できる。
現代のお金の偽造防止技術体験も可能。角度を使った潜像模様とパールインキ、光りを使った特殊発光インキとすき入れバーパターン、拡大すると分かるマイクロ文字と深凹版印刷の全6種類が見られる。

基本情報

名称 日本銀行金融研究所 貨幣博物館
所在地 中央区日本橋本石町1-3-1 日本銀行分館内
電話番号 03-3277-3037
料金(税込) 入館無料
営業時間 9:30〜16:30(最終入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館)、年末年始、臨時休館日
アクセス 半蔵門線・銀座線「三越前駅」徒歩2分
JR「東京駅」日本橋口から徒歩8分
公式サイト https://www.imes.boj.or.jp/cm/

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