シミュレータで街を疾走! 鉄道のしくみを学び、東武鉄道の歴史をたどる

東武博物館(東向島)

  • 2018/08/21
  • カルチャー
  • 博物館
東武博物館受付での案内やグッズの販売などを行う業務担当の鈴木愛美氏。稀にSLの運転席で記念撮影するイベントが行われることもあるとか

東京スカイツリー®を望む東向島駅の高架下にある「東武博物館」。浅草から伊勢崎などの群馬方面や日光などの栃木方面と、池袋から川越などへ路線網を広げた東武鉄道の創業から現在までを、実物車両、機器、記念物などの資料で振り返るとともに、シミュレータで現在の鉄道のしくみや安全性についても学べる体験型ミュージアムだ。大規模施設ではないが乗車できる実物車両も多く、子どもや鉄道ファンに人気。平日は約200人、週末は約1,000人の人が訪れる。浅草観光から足を延ばす海外観光客の姿もちらほら。

実物車両は全部で13両。東武鉄道で最初の蒸気機関車、電車、電気機関車がそろい、鉄道の発展を実物で体感できる

細長い館内は2F建て。1Fは創業期の蒸気機関車から、都市の発展と共に拡大していった路線網の紹介、歴代の車両の写真や模型、銘板などの展示、時代ごとに造られた特色のある実物車両、電気を取り入れて電車が動く仕組みや線路の切り替え、運転シミュレーション、巨大なジオラマが並び、2Fは東向島駅を行きかう電車の車輪が見られるウォッチングプロムナード、東武鉄道の歴史的記念物や保存物の展示、休憩コーナーなどで構成されている。
 最初に登場するのはSL。1898(明治31)年に英国から輸入され、1965(昭和40)年まで伊勢崎線の貨物列車を牽引していた「5号蒸気機関車(SL B1形5号)」。乗れないが、車体の周りを1周できるため、当時一流品として有名だったスチーブンソン式の弁装置、真鍮製の金色の蒸気ドームなど、輸入当時の姿に復元した姿を間近に見られる。1日に4回、汽笛を鳴らして車輪を回転させる「SLショー」を開催。シュッ、シュッと徐々に加速して大きな車輪が回っていく様子を目の前で見るのは、迫力があって楽しい。東武鉄道は鬼怒川線でSL「大樹」を走らせているが、東京近郊でSLの車輪が動く姿を見られる場所は希少で、このSLを目的に来館する人も少なくない。

東武鉄道最初の木造電車。車内はレトロ感満載で、現在の車両と比べるといろいろ発見できそう

SLの奥にも実物車両が続く。貨車や台車なども含めると全部で13両あり、館内のあちこちで車両が登場。来館した子どもたちは興奮気味だ。「東武鉄道の歴史上、貴重な車両を中心に保存しています。しかし、大きく重量もあるため、受け入れられる数と場所が限られており、現在は新しい車両を置くスペースがない状態。近年は、パーツ、記念品、プレートなど、車両の一部を保管しています」と、学芸員の山田貴子氏。
 1924(大正13)年に浅草(現とうきょうスカイツリー)〜西新井間を走行した東武鉄道初の電車「デハ1形5号」。車体が木造で、降下式の窓や木製の手すりなど味わいがあり、座って一休みすると時間がゆっくり流れていくような感覚に。中庭では、2009(平成21)年のリニューアル時に搬入した貨物運搬用のED101形101号電気機関車と、戦後最初の日光・鬼怒川線特急5700系5701号が公開されている。特急は、満席時に通路にイスを運び入れて座席を増やした点がユニーク。前面の飾り金の形が髭のように見えることから“ネコひげ”の愛称で親しまれたという。

ポップなデザインと、丸いフォルムで女性にも人気があるキャブオーバーバスは、東上線で貨物列車として活躍したED5015号電気機関車と並ぶ

館内の奥には、東武鉄道の電気機関車の基本形とされていたED5010形ED5015号、高度経済成長期に活躍したキャブオーバーバス、日光の明智平と展望台を結ぶロープウェイのゴンドラの3台が並ぶ。
 ブルーのストライプが印象的なバスは、より多くの人を載せるためにエンジン部分にまで客席が進出し、運転席が非常に狭い。当時の運転士はさぞ窮屈な思いをしていたに違いない。
 館外にも、スペーシアが登場する前に日光・鬼怒川線を走っていた特急1720系デラックスロマンスカー、1954(昭和29)年から1968(昭和43)年まで走った路面電車の日光軌道203号、博物館から少し離れたSLスクエアにある6号蒸気機関車と3台が設置されている。デラックスロマンスカーと路面電車は館内から車内へ乗り込めるため、座席に座って外を眺めると街中を走行しているような気分に浸れる。

本物と同じ操作ハンドルを使い、走行中の景色が運転席の前のモニターに映る。模型でも内容は充実

電車のしくみも実物を用いて解説され、分かりやすい。「ポイントとシグナル」では、本線と側線の線路の切り替えと信号の変化をボタン操作で確認でき、「電車の走るしくみ」では、架線からパンタグラフに電気を通してモーターを動かし、車輪を回す仕組みを実際の機器を動かしながら把握していく。
 人気の運転シミュレーションは、模型を走らせるものが4台、本格的なシミュレータが3台と多彩。模型列車の運転では、カーブや駅が近くなると減速を促すアナウンスが表示されるなど、電車の安全への取り組みも学べる。一方の本格的シミュレータ3台はどれもフルハイビジョンを採用。1つのハンドルで運転する比較的新しい50050型、2つのハンドルで運転する8000系、車体を切って運転時の振動なども感じられる10030型があり、伊勢崎線の上下線、東上線の上下線の4路線が日替わりで楽しめる。中でも、10030型は、ドアの開閉音などの演出もあって、臨場感は半端ない。操作に迷っても専属のスタッフが教えてくれるので心配無用だ。隣には、電車だけでなく、珍しい路線バスのシミュレータも設置されている。

シミュレータでは、各駅停車で2駅分など約5分間の運転が体験できる
バスのシミュレータは2路線から選択。ハンドルを回すと座席の下の車輪が動く

1Fの一番奥には巨大ジオラマ。毎日5回、模型車両を走らせる「パノラマショー」があり、これも人気が高い。夜は暗くなり電灯も付くなどの細かな演出や、懐かしい車両から新型特急リバティなどの最新車両までが一度に見られるのも魅力。ショーの合間は、特急スペーシア、特急りょうもう、50090系、9050系、10030系、8000系に限り、1回100円で4分間、模型電車を動かせる。
 2Fヘ上がり、定期券発行機や券売機、制服、単線区間で用いる通行証(タブレット)、自動改札機などの展示物コーナーを見学してから、ウォッチングプロムナードへ。駅の上りホームの下に窓を設置し、実際に走っている車両を間近に見学できる、立地を生かした同館ならではのスポットだ。普段は絶対見ることができない下から見上げる電車は迫力満点。東向島は各駅停車の駅のため通過してしまうが、特急スペーシアやりょうもうは人気が高い。線路もロングレールの伸縮継目の部分が見られる。従来のレールは等間隔で継目を通ると、ガタンゴトンと音がしていたが、ロングレールは継目を溶接した数十mから数kmもの1本のレールで、音や振動の少ない乗り心地を実現できる。また、従来の線路では気温によって線路が伸びてずれてしまうケースがあったが、伸縮継目は先の細いトングレールと受けレールをある程度の長さ重ねた特殊な構造になっているため、互いの接地面がずれて伸縮を吸収してしまう点が特徴で、近年主流になってきているという。

各車両の特徴や役割のアナウンスとともに、始発から終電までの東武鉄道の一日を紹介する「パノラマショー」

木製の収入金輸送用の金庫、1910(明治43)年の時刻表、大正期の服務規程といった残すべき貴重な資料を展示する“記念物・保存物コーナー”。一部は“新着資料紹介”として東武鉄道の動きに合わせ、廃車車両の特集や新収蔵品などが並ぶ。「新着資料紹介は数カ月単位で展示替えをしています。今は、1800系の5月のラストランの様子を写真やグッズを中心に展示していますが、3月頃は新たに発見された1965(昭和40)年に廃止された日光ケーブルカーの風力計などを紹介していました。鉄道ファン向き資料が多いですが、新収蔵品の紹介と共に時代背景を伝えていくようにしたいですね」と、山田氏は話す。現在、3人の学芸員担当スタッフと共に、収蔵品の管理保存、“新着資料紹介”の取りまとめ、情報誌『東武博物館だより』の制作などの業務を担当している。

最奥にある“記念物・保存物コーナー”は、全館の中で唯一撮影禁止のエリア。歴史的に貴重な品も

SL、特急、路面電車、ロープウェイ、バスと、たくさんの実物に乗れる楽しさは大人でも実感ひとしお。かつて活躍していた車両に乗り込むと、その歴史も感じられて日常と異なる空気感にも浸れる。一方で、3種類の本格シミュレータでは、運転の難しさを体感。ウォッチングプロムナードから実際の運行を眺めるのもユニークで、コンパクトな中に見所が詰まっている。浅草や東京スカイツリー®へ出かけたついでに、足を延ばせば鉄道という身近な乗り物への愛着や理解が一層深まるかもしれない。

ウォッチングプロムナードで停まった車両の車輪をじっくり見るのもユニークな体験だ。時刻表も掲示されてあり到着時間の把握もバッチリ

基本情報

外観
名称 東武博物館
所在地 墨田区東向島4-28-16 東武スカイツリーライン東向島駅高架下
電話番号 03-3614-8811
入館料(税込) 大人(高校生以上)200円、子ども(4歳〜中学生以下)100円
営業時間 10:00〜16:30
※最終入館は閉館30分前まで
休館日 月曜日(祝日の場合は翌平日)、12月29日〜1月3日
アクセス 東武スカイツリーライン「東向島駅」徒歩0分
公式サイト https://www.tobu.co.jp/museum/

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