日々の忙しさからしばし開放される、正統派喫茶店の上質な癒し

ヘッケルン(西新橋)

  • 2019/05/29
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ヘッケルン

虎ノ門駅と新橋駅のちょうど中間あたり、ビジネス街の路地にひっそりと佇む純喫茶「ヘッケルン」。この地で50年間営業を続ける老舗だ。慣れた足取りで店に入る近隣のワーカーらしき男性、地図を片手にやっと見つけた!という顔で扉を開けるカップル、しばらく外から観察してえいやっと勇気を出す外国人――小さな扉に磁石でもついているかのように、その純喫茶には次々とお客が吸いこまれていく。店内に入ると、低い天井にレトロな照明、小さなカウンターとそれを取り囲むように並ぶテーブル席が、まさに昭和の雰囲気。経年の風合いと行き届いた手入れで、ツヤツヤと光沢を放つ椅子・テーブル・メニューボードに、既に居心地の良さを感じる。

マスターの森静雄氏。“東京のお父さん”と県外から慕ってくる客も多い。

そしてお客と会話をしながらも、カウンターの中できびきびとテンポ良く手を動かすのが、こちらの名物マスター森静雄氏だ。一代で50年間守り続けたお店で提供するのは、コーヒーにプリン、サンドイッチと喫茶店の王道メニュー。なんと30年以上価格は据え置きというから驚きだ。「うちに来るお客さんはファミリーだからね、みんなのお陰、地域のお陰でやっているから。お金は必要な分あればいいの」。そういって蝶ネクタイとエプロン姿のマスターはにっこり笑う。

ヘッケルンが発祥の「特製ジャンボプリン 350円」。卵をたっぷり使い、カラメルソースまで毎日手作りする昔ながらの蒸しプリンだ。

多くのお客が注文するのが、「コーヒー・プリンセット 600円」。サイフォンでゆっくり抽出するコーヒーは、アツアツの出来たてを味わってほしいとオーダーが入ってから一杯ずつ淹れる。そしてヘッケルンの代名詞がこの「特製ジャンボプリン」だ。レトロなガラスの器の上に乗る均整の取れた愛すべき台形、山頂には琥珀色のカラメルソース。純喫茶のプリンはこうでなくちゃ!というシンプルベストな出で立ちに心躍る。

ツヤツヤ、プルン!ゼラチンや凝固剤を使わずしてこの弾力を生むために、長年研究を積んで完成形に導いた。

スプーンを跳ね返さんばかりの、ツルンとした弾力に驚きながらまずは一口。口内で一瞬にして広がる濃厚な卵の香りときめ細やかでハリのある舌触りは、見た目の期待を軽く超えてくる。そこに、甘みと香ばしさのバランスが秀逸なカラメルソースが隙なく沁みわたり、最後まで飽きずにペロリといけてしまう。「材料は別に高価なものを使っているわけじゃないけど、とにかく丁寧に時間をかけて、こまめに仕込むのが大事」とマスター。毎日のオーダー数はだいたい把握しているが、一度で全量を仕込むことはせず、営業時間中にこまめに作る手間を惜しまないことで、まさに“生きている”ような新鮮なプリンが提供できるのだ。また、味や色味・粘度が安定しにくいカラメルソースは熟練の技を要する工程だが、これも長年の感覚を頼りに毎日実直に再現している。

粗めに潰したゆで卵が食欲をそそる「タマゴサンド 380円」もこの価格。

この「タマゴサンド」も人気メニューの一つ。出来立てにこだわるマスターの信念はここでもいかんなく発揮される。ゆで卵の殻を剥き、細かく潰し、マヨネーズと合わせ、パンの耳を切り、挟む。これは全てオーダーが入ってからスタートする工程だ。「作り置きしたらそりゃ楽だけどね、こうやって出来立てを提供すると、ほんのちょっとの違いだけど、パンのふわふわ感も、タマゴの食感も、味のまとまり方も、やっぱり良いんだよ。そのちょっとを大切にできるかどうかだね」。確かに、材料はシンプルなのに、なぜか異様に美味しく感じるのは、そのメニューに注がれる少し多めの愛情を感覚的に理解しているからかもしれない。
 ちなみに、タマゴサンドが売り切れた時は、まれに裏メニューでオムレツサンドを出してくれることも。その際は、マスターの秘技フライングオムレツもお見逃しなく。

変わらないことの方が難しいこの時代に、同じ場所、同じ人の出迎えで、心を込めたいつものメニューが食べられるという贅沢。その喜びをジャンボプリンと共に噛みしめながら、また明日も頑張ろうと思わせてくれる一軒だ。

基本情報

店舗外観
名称 ヘッケルン
所在地 港区西新橋1-20-11 安藤ビル1S
電話番号 03-3580-5661
営業時間
月〜金
8:00〜19:00
8:00〜17:00
定休日 日祝、第2土曜
座席数 20席

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