CLEAR EDITION & GALLERY(六本木)
六本木通りから国立新美術館側の路地に入ったビルの2階にある「CLEAR EDITION & GALLERY」。2007年末、現オーナーの中牟田 洋一氏が青山でスタートさせ、2012年に六本木に移転した。スペースの問題から絵画が多いものの、ジャンルや国籍を定めず、映像や彫刻なども交えて個展を開催。空間に合ったアートを見つける能力が高く、店舗やホテルに飾るアート作品の購入も行う。ハッと目を引く新感覚のアートの掘り起しやギャラリーの楽しみ方を、ディレクターの佐藤拓氏に聞いた。
「絵画、映像、彫刻、ポップカルチャーに至るまで幅広くジャンルを横断し、オーナーの中牟田とディレクターである私の感性に合った作家に声をかけています。焼き方に工夫を凝らした抽象的な写真作品、スツールにもなるといったプロダクト系作品もあって本当にバラエティに富んでいますね。ギャラリストは、作家の作品を最大限に美しく演出するという責務がありますが、やはり作家の個性や作品分野によって得意、不得意が表れて、それが自然とうちの特色になっているかもしれません」。中牟田氏と佐藤氏が目指すギャラリーは、一般的なギャラリーと少し方向性が異なるようだ。
コンパクトな室内は、右側が展示室、左側がオフィスになっている。30代以上のワーカーの訪問が多い。「平日の会社帰りに来る方もいますが、dir_(Invisible Designs Lab.)の「KO-TONE」展のような体験型だと、土曜の来訪者が増えますね」。1カ月前後のスパンで個展を開催しており、鉛筆画の金子英や、抽象画の中村穣二、オーストラリアのグラフィックアーティスト マーク・ドリュー、タイの女性映像作家カウィタ・ヴァタナジャンクール等が定期的に登場。フィルムを加工して抽象的な作品を作るレイ・パルラ、ノスタルジックな風合いの絵画を描くクリス・ラックス、抽象的な切り絵を作る尾関 幹人など、独自の感性で集めた気鋭のアーティストがそろう。
所属作家との関わり方にもこだわりがある。「うちでは、他ギャラリーでの活動を制限する契約書はありません。どんなに才能があっても1年で目が出る作家はほぼ皆無。やり取りを続けていくためには、信頼感が大切です。ここでの個展が初個展という作家もおり、じっくりと周知していくことを意識しています」。年代が近い方が感覚的に合うのか、中牟田氏や佐藤氏と同じ30〜40代が所属作家の中心を成す。
多様なジャンルの所属作家を、どのようにして探し出しているのだろうか。「国内外のアートフェアで声をかけたり、所属作家から紹介を受けたり、台北にある姉妹スペースのギャラリーで地元の業界関係者から推薦されることも。もちろん、作家自身がポートフォリオを持って売り込みに来るケースもありますね」。国内のギャラリーで海外に拠点があるのは珍しい。アートフェアよりも拠点先の仲間から面白い作家を教えてもらうことの方が多いのだとか。
「若手作家の場合は、まず自分がその作品を好きで、良い意味で引っ掛りがあるかどうか。そして、しっかりコミュニケーションが取れるかどうか」。好きだからこそもっと知りたい欲求が生まれる、人としての本質を追求。もともと美術展鑑賞が好きだった佐藤氏は、今でも美大などの卒業制作展へ足を運ぶ。“技術的に優れている”、“他を圧倒するほどのグロテスクさ”など、興味がわくと調べたくなるという。中堅クラス以上は、今までの作品販売数、個展開催場所といった別の判断材料が出てくるので、純粋に興味の有無で計れないそうだ。ギャラリストであっても、判断の根底には嗜好性が横たわる。それが逆に、初心者や素人が現代アートと接する時に、構えず素直な気持ちで向き合えば良いと肯定されたようで、ホッとする。
個展での周囲の反応も重要だ。「売れる機運が高まった作家はもちろん、キュレーターなど業界の人の反応がすこぶる良い、国内外の個展やアートフェアなどで反応が良い作家はポテンシャルがあるため、意識して出します」。中には、敢えて自分たちが単純に好きで多くの人に知ってもらいたい作家を取り上げるときも。スタンスが明確なため、海外で有名だからと言って取り扱うこともない。国、場所、有名無名に関わりなく、感覚的、プログラム的に条件が整うことが大前提なのだ。その意味では、最近所属した作家こそ中牟田氏と佐藤氏が注目するアーティストとも受け取れる。2017年秋に日本初個展を開くレイ・パルラは、今まで見たことがない作風に興味を引かれ、面白いなと思ったのが決定打だったという。
佐藤氏は、4〜5年前からアート作品の力が周知され、一般人の購入が広がってきたと話す。不景気による節約志向の高まりをきっかけに、家で過ごす人が増え、ホームパーティや家飲みなどが浸透。加えてSNSによる作家自身の情報発信も盛んになり、アートを身近に感じることも増えた。これらの要素が絡み合って、アート購入の敷居は下がってきているのかもしれない。佐藤氏自身もアート作品をいくつか購入し、掛軸のように年数回入れ替えて楽しむという。アート作品で染まった自宅の空間は気持ち良く、頑張って購入した分、愛着もひとしおなのだとか。
「アート好き=美術館での鑑賞という認識が強く、アートを購入する人は別グループという棲み分け。この垣根をなくして、見て楽しめ、買って楽しめるアートの認知が目標です。そのため、お客様にはなるべく話しかけて疑問や質問に答えるようにしています。どこで買えばよいか分からなかった、話を聞いて買いたくなったなど、うちのギャラリーでアート作品を初めて買ったお客様は、意外と多いんですよ」。購入できるアート作品と向き合える場所は、ギャラリーか、ミュージアムショップ程度。もっと気軽に来て、作品の表現の意味合いや作家が制作を始めた経緯なども聞いてほしいという。「アクティブでビビットな映像作品を作っているカウィタは、実際に会うと楚々としたお嬢様。良い意味のギャップが凄いです」。作家が必ず参加するオープニング展に行って、作品のイメージとの違いを感じる楽しみ方も。
広告会社やフィギュアスケートの大会運営などを経て、念願のギャラリストとなった佐藤氏。多くの人を繋ぐパイプ役を務めた経験が、ソフトな語り口や真摯な対応に生きている。
名称 | CLEAR EDITION & GALLERY |
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所在地 | 港区六本木7-18-8 岸田ビル 2F |
電話番号 | 03-3405-8438 |
営業時間 | 11:00〜19:00 |
休廊 | 月曜日、日曜日、祝日 |
アクセス | 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩2分 |
公式サイト | https://cleargallerytokyo.com/ |
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