ROPPONGI HILLS A/D GALLERY(六本木)
六本木ヒルズ、ウェストウォーク3FにあるA/Dギャラリー。当初はストアの中の一スペースだったが、2010年の店舗リニューアルに合わせて独立した。約63平米のコンパクトな広さながら、若手を中心にマンガ、映像、陶芸など、幅広く現代アートを紹介している。かじ取りするのは、美大を卒業し、デパートの画廊で長く美術品の販売に携わった経歴を持つ、上田敏雄氏。ヒルズならではの客層、作品の持ち帰り、売れる作家の要件などを聞きながら、エントリークラスのギャラリーの魅力を探った。
現代アートという枠はあるものの、ポリシーを持たないことがポリシーと明言するほど、取り扱う内容はマンガから社会派まで幅広い。山崎龍一、渡辺篤、天明屋尚、増田セバスチャン、内海聖史、長井朋子、久松知子など若手が中心。ウィスット・ポンニミット(タムくん)、宇野亜喜良は人気でたびたび取り上げている。最若手には、学生がメンバーにいるカオス*ラウンジも。稀に、草間繭生、奈良美智、村上隆といった大御所が登場する。「国内外を問わず人気がある、作品がかわいい、社会批判的要素など、話題性と集客力を意識して年間の個展を決めています」と上田氏。森アーツセンターギャラリーで、“ワンピース展”や“セーラームーン展”などを開催するようになり、オリンピックを控えて訪日客が増加している昨今は、ギャラリーオープン時と客層もずいぶん変わった。多くの人が行きかう場所柄、賑わいの創出は企画の肝だ。A/Dストアとの連動は時々実施しており、2017年10〜11月の増田セバスチャン個展では、華やかな色合いの作品を生かして、ギャラリーでは美術品、ショップではグッズを扱う。
購入は、ふらっと立ち寄る外国人観光客が主。特に、台湾やシンガポールなどアジア系が伸びている。商談で訪日したビジネスマンが、その前後で購入するケースもあるとか。日本人の顧客は、作家の固定ファンや以前から欲しくて探していたという場合が多い。「生活必需品ではないから、余暇としての美術展鑑賞は花盛りだけど、所有まではなかなか…。アートに興味というより文化に興味がある段階で、アートを所有するのはまだまだ富裕層や企業など限定的に感じています」。一般的に年収の10%が余裕資金と言われている。趣味や娯楽に使い、さらにアートを買うためには、それなりの“ゆとり”が必要だ。上田氏は、ギャラリーだからと作品を買ってもらおうと強く働きかけず、たくさんの人に見てもらい、次世代の作家の作品を体感してもらう目的で個展を開催しているという。
「日本人の顧客は外国作家の作品を買うケースが多いのですが、中国やインドの人たちは、自国のアーティストの作品を購入し、質の良い作品が国外に流出しないように努めています。国外にある自国の作品を買い戻すこともするようです。日本人も購入することで自国の文化を育てていくという意識を高めていくと、アートももっと広がりをみせるかもしれません」。
個展の期間は約3週間。「人気作家のオープニングだと列ができる時もあります。初日で完売もありますよ」。普通は会期終了まで作品は展示されるが、購入者が外国人旅行者だと持ち帰ることも。もちろん、作家と相談した上での展開だが、ストックがある場合は積極的に入れ替える。毎年実施しているタムくんの個展では、版画は持ち帰り、壁に貼ったドローイングも売れたらはがして渡している。
「ほかと違って無休で日祝も開いているし、ショップに併設なので入りやすいと思うんです。ある意味、デパートの画廊よりカジュアルな位置付け。それでも、興味がないとストアからギャラリーを素通りして出口に行ってしまう」。多くの人が通っても、入らなければ始まらない。情報提供の一環として、作品の側に価格を表記している。作品により3,000円程度から、1千万を超えるものまで様々。タムくんのドローイングは3,000円から販売している。「一般的なギャラリーだとスタッフに話しかけづらく、価格も分からずじまいで帰る場合もあるため表記しているのですが、興味深いことに7割くらいの人がまず価格から入ります。純粋に作品と対峙するなら価格はない方が良いかもしれません」。ドアもなく、ストアから続きで入れる気軽さは、ほかのギャラリーにはないオープンな雰囲気。森美術館や森アーツセンターギャラリーで楽しんだ後、余韻に浸りながら触れられるのも魅力だ。
個展とストアに置く商品の選定は上田氏がジャッジ。前年の夏までに翌年の個展スケジュールを固める。既存の作家8割、新人2割の塩梅だ。そこから作家は新作を作り始める。作家のスケジュールとギャラリーのスケジュールの摺り合わせは大切なものの、一番の条件は作家の制作姿勢なのだとか。「取り上げる際は、必ず作家と直接会います。ギャラリーは販売する場所なので、作品が売れるクオリティであることは最低限のルール。そのためには、真面目に自分と向き合って制作をしているかどうかが、一番大切です」。 “好きだから描く”といった独りよがりは、技術はあっても見る人に響かないという。見る人たちへのフックとなるコンセプトが売れる作品には必要なのだ。
「うちは作家のマネジメントを行わないので、ほかのギャラリーに属する作家に依頼します。そのギャラリーでも多くの人の目に触れる場所で所属作家を紹介できるメリットがあるので、相互協力ですね。でも、休日は秋葉原、日本橋、天王洲などのギャラリーを巡り、若手や新人の情報収集をしています」。気鋭の若手は応援したくなるが、新人は単価が低く収益性は乏しい。若手が10万円の作品を出し、全部で200万円売れたとしても、大御所だと200万円の版画1枚で吸収できてしまう。各地で行われるアートフェアや個展での作品の移送費といった経費も無視できない。庶民に手が届く若手の作品ばかりでは運営が成り立たないのだ。集客や注目度を勘案しつつ、人気作家、若手、新人のバランスを取って採算ベースに乗せる、そのかじ取りこそギャラリストの腕の見せ所なのかもしれない。
名称 | ROPPONGI HILLS A/D GALLERY |
---|---|
所在地 | 港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ ウェストウォーク3F |
電話番号 | 03-6406-6875 |
営業時間 | 12:00〜20:00 |
休廊 | 無休 |
アクセス | 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩5分 |
公式サイト | https://art-view.roppongihills.com/jp/shop/index.html |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。