現役デザイナーが、他にはないユニークな切り口でデザインの魅力を発信21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン トゥーワン デザインサイト)

21_21 DESIGN SIGHT写真:吉村昌也

東京から世界に向けてデザイン文化を発信する拠点として、2007年に開館した21_21 DESIGN SIGHT。一般的な美術館はもちろん、デザインにまつわる作品のアーカイブを持つ従来のデザインミュージアムとも一線を画す、独自視点の展覧会を中心としたデザインの展示施設だ。

英語で優れた視力を「20/20 Vision (Sight)」と表現することから、さらにその先を見通す場でありたいという思いで、この施設名がつけられた。写真:吉村昌也

東京ミッドタウン内、檜町公園に続く緑地「ミッドタウン・ガーデン」の中で目をひく建物は、世界的な建築家・安藤忠雄氏の設計によるもの。21_21 DESIGN SIGHTの創立者でデザイナーの三宅一生氏の服づくりのコンセプト「一枚の布」を着想源にした、「一枚の鉄板」を折り曲げたような屋根のデザインをはじめ、いたるところに世界屈指の日本の技術が結集された建築だ。また、周辺環境に溶け込むよう、展示スペースの8割を地下に埋設するという斬新な造りも特徴で、外観からは思いもよらない内部空間の広がりが、展示へのワクワク感を高めてくれる。その独創性や建設技術の高さから、純粋な建築ファンが見学に訪れることも多いのだとか。

「水」をテーマにした展覧会「water」でサンクンコートに設置された作品。巨大な傘と水滴が印象的で、実際に雨が降れば濡れるという環境も面白い。「water」(2007年10月−2008年1月/写真:吉村昌也)
「虫展 -デザインのお手本-」で披露されたギャラリー1の映像作品。昆虫たちの世界を浴びるように体験する“昆虫のミュージックビデオ”に来場者は釘付け。

実際の展示スペースも、一般的なホワイトキューブとはかなり様子が違う。自然光が降り注ぐ半屋外のサンクンコートは、毎回意表を突くインスタレーション作品が設置される、21_21 DESIGN SIGHTらしい展示エリア。解放された空間の頭上に広がる高層ビルと作品の対比は、この場所ならではの楽しい鑑賞法だ。また、ギャラリー1で度々展示される、壁面全体を使った映像作品も人気が高く、展覧会毎につくり込まれるダイナミックな世界観は必見。さらに、展示室の最後に通る暗く細い廊下は、母親の産道を抜けて、その先に広がる世界に新しい自分がポンと産み落とされるような、新鮮な気持ちに毎回させてくれる。

ギャラリー3で開催された、インドのものづくりに宿る精神を紹介した「Khadi インドの明日をつむぐ - Homage to Martand Singh -」の展示風景。

地下階のギャラリー1&2に加え、2017年の10周年を機に開設したギャラリー3でも、頻繁に展覧会やイベントを開催。こちらは入場無料の展示も多く、地上階というアクセスの良さから、比較的気軽に立ち寄ることができる。
 また、同じく地上階にあるショップでは、開催中の展覧会にまつわる商品をはじめ、ディレクターに関連した商品や、施設のロゴや建築にちなんだオリジナルグッズを展開する。

最も広い展示スペースを有するギャラリー2。過去最多の動員を記録した「デザインあ展」の会場風景。「デザインあ展」(2013年2月−6月/写真:吉村昌也)

21_21 DESIGN SIGHTには、デザインに関するプロダクトや作品の常設展があるわけでも、デザインの歴史を俯瞰する学術的な資料があるわけでもない。では、一体何があるのか。ここでは、訪れる人がデザインの楽しさに触れ、新鮮な驚きに満ちた体験ができるよう、新しいデザインの視点(Sight)に着目した展覧会が、1年間に約3回のペースで開催される。面白いのは、そのテーマ。「チョコレート」「単位」「土木」「アスリート」「音」「ユーモア」など、私たちに身近ではあるが、これが展覧会として成立するのか?と思ってしまう、大胆でユニークな“お題”ばかりが主役になるのだ。

「音」がテーマの「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」の展示風景。無形のモノを、デザインの文脈で分かりやすく可視化するのは、21_21 DESIGN SIGHTの得意とするところだ。

このテーマを検討・吟味し、企画の土台をつくるディレクター陣の存在は、21_21 DESIGN SIGHTの大きな特徴の一つといえる。一般的な美術館には、美術に特化した専門のキュレーターや学芸員がおり、企画の立案から保存、研究などを行うが、こちらでは、デザイナーの三宅一生氏、グラフィックデザイナーで同館館長の佐藤卓氏、プロダクトデザイナーの深澤直人氏と、現在も第一線で活躍するデザイナー3人がディレクターを務める。そこに、ジャーナリストでアソシエイトディレクターの川上典李子氏、プログラムディレクターの前村達也氏なども加わり、企画展のテーマや内容が常にチームで検討される。毎回のディレクターズ会議に、創立者や館長まで密に関わるというのは驚きである。

東日本大震災を受けて企画された「テマヒマ展〈東北の食と住〉」は、佐藤氏、深澤氏が展覧会ディレクターを務めた。「テマヒマ展〈東北の食と住〉」(2012年4月−8月/写真:西部裕介)

そして、テーマが固まると、その展覧会を指揮する展覧会ディレクターを決定するが、3人のディレクター陣がそのまま引き受けることもあれば、適任と思われる外部の専門家が招聘されることも。いずれも、デザインの現場を肌で知る現役のデザイナーが中心になって、企画の輪郭が形づくられていくのだ。
 「キュレーターや学芸員が、テーマや作品の文脈から学術的に考察し、それに沿って組み立てていく “編集作業”だとしたら、21_21 DESIGN SIGHTのディレクターは、企画・会場構成から作家・予算決めまで現場を動かして落とし込んでいく“制作作業”のような側面が大きいと思います」との、プログラムディレクター前村達也氏の説明が分かりやすい。

プログラムディレクターの前村達也氏。「展覧会をつくる責任ある一員でありたい」と、常に制作現場を第一に考える。

前村氏は、オランダのデザイン学校を卒業後、約2年間の京都暮らしを経て、東京の広告制作プロダクションに入社。そこでグラフィックデザイナーの葛西薫氏との出会いや、やり取りから「展示の現場を動かす力」を感じることができ、自身の進むべき道が見えたのだという。21_21 DESIGN SIGHT では、2011年の「テマヒマ展〈東北の食と住〉」から本格的に企画に携わるようになり、これまで「デザインあ展」「コメ展」「単位展 ― あれくらい それくらい どれくらい?」「雑貨展」「アスリート展」「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」「虫展 -デザインのお手本-」を主に担当してきた。
 「21_21 DESIGN SIGHTは毎回一つの明確なテーマがあるので、ディレクションも簡単そうに見えるかもしれませんが、これはどうしたらいいんだ?と頭を抱える企画もたくさんあります。例えば、一番難しく感じたのが『アスリート展』。『虫展』のように、俯瞰してみられる対象物であれば切り口も見つけやすいですが、アスリートは同じ人間でありながらも、自分はアスリートになったこともない。そして、身体というメディアを通して伝えるアスリート性というものを、どう来場者に感じてもらえるか、身体性を学術的思考で語り過ぎてはいないか…。いかにデザインの視点で柔軟性をもたせるかをチームと共に試行錯誤しました」。雲をつかむようなテーマの中から、わずかな取っかかりを見つけ新しいデザインの価値を発掘する――きっと0を1にする生みの苦しみは想像以上だろう。

試行錯誤した「アスリート展」は、蓋を開けてみると、陸上競技の世界記録を体感する、実寸大のプロジェクション映像「驚異の部屋」や、自分自身のバランスを理解することで、身体感覚を体験できる「バランスコントロール」など、体感・体験的にアスリートを知る展示が充実し話題となった。「アスリート展」 (2017年2月−6月/写真:木奥恵三)

しかし前村氏は、そんな展覧会が好きなのだ、と目を輝かせる。「実は、オランダのデザイン学校で受けていた授業って、今やっている事と一緒なんですよ。Well-being科という日本語でいうと『人間性』『人間らしさ』みたいな科に所属していたんですけど、ようは人間がより良く生きるためのデザイン全般ということなので、リサーチは多岐に渡りましたし、決まった枠組みがない分自分で探し求めて取捨選択していかないといけない。そこで得た思考のプロセスや問題解決の手法は、今も絶対的なベースとして自分の中にありますね」

「コメ展」に向けて実際に行われた田植えの様子。リサーチを重ね、自ら体験するプロセスが作品に昇華される。写真:安川啓太

リサーチもまた、21_21 DESIGN SIGHTの生命線だ。展示では、作品を発表する作家それぞれにテーマや切り口が与えられるが、その作家に依頼する前段階のリサーチを、展覧会チームで徹底的に行うのだとか。「準備段階での綿密なリサーチは一番重要といっても良いかもしれません。自分たちの中でそのテーマにおけるトピックを広げて掘り下げて、ある程度精査できてから作家さんには相談、依頼します。ですから、存分に勉強して、体感・体験することで、当事者として追及する気持ちを奮い立たせているんですね」と前村氏。実際に「コメ展」の際は、まずはお米のことを知って、自分たちが作ったお米を制作に使うのが筋だろうと、田植えから収穫までを展覧会チームと21_21 DESIGN SIGHTスタッフみんなで行ったという。また、「虫展」の際は昆虫採集に出かけ、「テマヒマ展」の際は東北の田舎に赴き農家や職人から直接話を聞いた。この一つのテーマに懸ける好奇心の強さと、フットワークの軽さには目を見張るものがある。

そんなアプローチを経て、現役のデザイナーやクリエイターたちが全力をかけて完成させる展覧会。その密度の高い展示とギャラリーに充満するライブ感を肌で感じた来場者は、 次第に、自分はデザインを“鑑賞”しているのではなく、“発見”しているのだという能動的な楽しさに気づくはずだ。学生や若い年齢層の社会人、海外からの来館者が多いのも、時代に即した敏感なアンテナを持つ人々が共鳴している証だろう。

「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」に連動したスペシャルライブの様子。「LIVE AUDIO ARCHITECTURE × 8」
(2018年9月25日/写真:中道 淳(Nacása & Partners Inc.)/会場構成:片山正通(Wonderwall))

会期中に行われる、企画関係者や参加作家によるトークイベントやワークショップなどの関連イベントも多彩。ユニークな企画も多く、「ユーモアてん。」では、展覧会ディレクター・浅葉克己氏の卓球愛を活かし、参加作家が作成した卓球台を使った卓球大会を開催、「AUDIO ARCHITECTURE展」の際は、展覧会のために書き下ろされた小山田圭吾氏(Cornelius)の新曲を、映像作品の前で本人が生演奏するライブを開催するなど、人間の持つさまざまな感覚を駆使して、展覧会を深く知る手助けをしてくれる。

21_21 DESIGN SIGHT が誕生するキッカケとなった、2003年の三宅氏の新聞への寄稿にこんな一文がある。――世界に誇り得るデザインの宝庫である日本に「デザインミュージアム」ができるのは、いったいいつのことか。資源を持たない国で、日本人がこれからも胸を張って生きていくには、知的なエネルギーを発揮するしかない――
 それから16年が経った2019年、イタリアを代表する通信社ANSA通信による「世界の必見デザインミュージアム10」に21_21 DESIGN SIGHTが選出。その存在は、開館から12年を経て、日本を飛び出し世界でも認められるまでに大きく成長した。
 「デザインとは何なのか」を問い続け、デザインを通して私たちに新しい発見と未来の可能性を提示してきたこの場所が、これからも日本人が胸を張って生きていく道標となってくれるはずだ。

21_21 DESIGN SIGHT(六本木)
外観写真:吉村昌也
港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
03-3475-2121
料金:一般1,200円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
10:00〜19:00(最終入館は閉館30分前まで)
休館:火曜、年末年始、展示替え期間
東京メトロ日比谷線「六本木駅」、
都営地下鉄大江戸線「六本木駅」、
東京メトロ千代田線「乃木坂駅」より徒歩5分
webサイト
2019年7月取材/2019年8月更新