完璧に作り込まれた幸福の図がまばゆい
凝りに凝ったビジュアルと、旬の女優 ムーアを観る
背景やセットからコスチュームやメイクにいたるまで、こだわりのビジュアルが美しい。1950年代の古きよきアメリカを舞台にしたメロドラマだ。主人公は一流企業の重役である夫と2人の子供をもつ、ブルジョワ家庭の主婦キャシー。彼女がさまざまな人間関係から、社会や自立に目覚めてゆくさまを上品に描く。女としてのときめきや幸福がありながら、思い通りにはいかない現実……。同性としてヒロインに共感したためか、物語には少しストレスを感じた。
本作で楽しむべきはやはり、ビジュアルと雰囲気。最新スタイルの流れにもあるカラフルな50年代調ビンテージ・ファッション、垢抜けた庭付きの一戸建て、鮮やかに色づいた紅葉と、どのシーンを切り取ってもグラビアの1カットとして通用するほど。ただ、キレイすぎてかえって心に残らない印象も否めない。『ベルベット・ゴールドマイン』で知られるトッド・ヘインズ監督は、灰皿の置き位置ひとつにもこだわり、その幸福な世界を作り上げたのだそう。
そして主演は、演技派の女優ジュリアン・ムーア。アカデミー賞では本作で主演女優賞、『めぐりあう時間たち』で助演女優賞と、Wノミネート。受賞こそ逃したが賞の有無にかかわらず、実力は誰もが認めるところ。現在42歳のムーアは本作と『めぐりあう〜』撮影当時、第二子を妊娠中だったというからそのバイタリティには驚くばかり。そうした私的な実情もまた、母性や女性らしさ、人間らしさの表現を深いものへと導いたのかもしれない。
ムーアは『ハンニバル』のクラリス役を演じたことで有名だが、良作である『シッピング・ニュース』『理想の結婚』も見逃せない。またシリアスにとどまらず、『ブギーナイツ』『ビッグ・リボウスキ』『クッキー・フォーチュン』などさまざまなジャンルの作品に出演しており、アクの強さやユーモアも自由自在。いわゆるスター俳優より弱い印象があるかもしれないが、それこそが彼女の個性。たとえばジュリア・ロバーツの主演作は“ロバーツの映画”となりがちだが、ムーアの場合そうはならない。彼女はいつでも物語の世界に溶け込み、完成に不可欠なパーツになる。自身の個性をアピールするより、物語や監督の力を最大限に引き出す存在になるからだ。気鋭の監督たちからオファーが多いのも、おそらくそのために違いない。
私も彼女のいちファン。きっとこれからもキャストや観客やマスコミ問わず多くの人々を魅了し、その期待に長く応えていってくれるだろう。こだわりの監督による旬の女優の最新作。アンニュイな気分に浸りたいときにどうぞ!
公開 | 2003年7月公開予定 シネマライズ、日比谷スカラ座2ほか全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2002年 アメリカ |
上映時間 | 1:47 |
配給 | ギャガGシネマ |
監督 | トッド・ヘインズ |
出演 | ジュリアン・ムーア デニス・クエイド デニス・ヘイスバート パトリシア・クラークソン |
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