忘れていることにさえ気づかないような
日常のあたたかい感覚を丁寧に描く
気鋭の若手監督・行定勲が綴る関西系青春群像劇
みんなつながっている。生は死に、日常は事件に、絶望は希望に、彼の思いは彼女の気持ちに、私のかなしみも誰かのさみしさも。終始やわらかく響く関西のことばがやさしい余韻をのこす、ある晩の物語。妻夫木聡、田中麗奈主演、『GO』の行定勲監督による、いまどき世代たちのほのぼのとした群像劇である。
大学院に進学するために京都で町家住まいをはじめた青年のもと、友人たちが集う。仲のいい彼氏と彼女、元気のいい女の子、気の小さい美青年、いじけやすい男、マイペースなやつ……7人は飲んで食べて、楽しく過ごす。TVのニュースでは海岸に座礁した鯨のこと、ビルとビルの間にはさまって動けなくなった男の話が流れていた。
とある若者たちのとある日常。なんの意味があるの? といわれると、あまり意味はないかもしれない。ただこの映画を観たときに、いつのまにか自分が意味だらけ、理由だらけに暮らしていることに気づいて、ちょっとびっくりした。むかし意味もなくシアワセだったり酔いつぶれてばっかりいたころの、未来の予感のような勢いのような、急ぐことも気負うことも何もない漠然とした感じ。そのちょっと不安定であったかい感覚がここにある。なぜかみんなの面倒をみることになるまっとうな青年、いじけてあばれて八つ当たりする男、彼女がかわいくて仕方ない彼氏、他愛もない話を楽しそうにする女の子たち……そのすべてに、あの日の私たちがいる。
妻夫木や田中をはじめ、関西弁を使わない出演者たちにその訓練を受けさせて、本番でも方言指導者からOKが出ない場合はNGと、ことばには徹底的にこだわったとのこと。その甲斐あって、やわらかなイントネーションの醸しだすのんびりとした空気がとてもいい。また舞台の中心となっている古い町家の風情も素敵。年代物のふすま紙の壁紙にレトロなデザインの照明。なつかしい匂いのあたたかくおちついた空間にホッとなごんだ。TVや携帯電話など、さまざまなツールによる“つながってる”感覚。良くも悪くも日常に当たり前に入り込んでいるその感覚と、人々の生活との距離感がとてもうまく描かれている。製作に電通がはいっていることもあり、田中麗奈がアロエヨーグルトをしっかり食べているところなどは笑えるが、それも自然で嫌味がない。そのほかCGではなくちゃんと原寸大に造られた鯨や、淡々としすぎないようほどよいタイミングで小気味よく笑いがあるところなど、全体的に行定監督の行き届いたセンスが感じられた。
考えすぎてワケワカンナクなったとき、いろいろな“意味”に疲れたとき、ふと観てみてはいかがだろう。自分でも忘れていた感覚や思い出がひょこっと顔をだし、ふっと心をあたためてくれるかもしれない。
公開 | 2004年3月20日公開 テアトル新宿、渋谷シネ・アミューズほか全国拡大ロードショー |
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制作年/制作国 | 2003年 日本 |
上映時間 | 1:50 |
配給 | コムストック |
監督 | 行定勲 |
脚本 | 行定勲 益子昌一 |
原作 | 柴崎友香 |
音楽 | 矢井田瞳 |
出演 | 妻夫木聡 田中麗奈 伊藤歩 |
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