みなさん、さようなら

話題の第76回アカデミー賞外国語映画賞受賞作
シニカルでユーモアたっぷり、ヒューマン少々
生き様に死に方、父子の和解を描いた物語

  • 2004/03/08
  • イベント
  • シネマ
みなさん、さようなら

第76回アカデミー賞授賞式にて、『たそがれ清兵衛(米題:トワイライト・サムライ)』と接戦のすえに外国語映画賞受賞を果たした本作『みなさん、さようなら』。日本勢の受賞も期待されていたため、国内でもアカデミー賞が例年より注目を集め、本来はそれほど関心度が高くはないこの賞にも大注目。受賞が発表されたときには、本作のタイトルがTVやラジオでずいぶん放送されていた。さて、にわかに注目を集めているこの映画、原題『Les Invasions barbares(フランス語で「蛮族の侵入」)』は、いったいどんな作品なのだろう。

敏腕証券ディーラーとしてロンドンで働くセバスチャンは、毒舌で偏屈な父親レミが入院したため母親から故郷カナダに呼び寄せられる。大学教授だった父レミの女癖が原因で両親が離婚して以来、15年間口もきかず「父のようになるまい」と思って生きてきたセバスチャンだが、レミが末期ガンで余命いくばくもないことを知り、母に泣きつかれたこともあり、仕方なくレミの面倒をみることに。再会してまもなくは、社会主義思想を信奉する享楽主義者のレミとマジメで合理的な資本主義者のセバスチャンは相変わらず反発しあってばかりいたが……。

みなさん、さようなら

物語は笑って泣ける、しみじみとした群像劇。筋としては、死を目前にした父が長年反目していた息子と和解し、家族や友人たちに見守られながらおだやかに死を迎える……というヒューマンタッチのシンプルな内容だ。しかし実際の映像では、ゲイの男性カップルや巨乳妻にメロメロの教授、2人の元愛人など型破りな友人たちとレミとのブラックジョークが飛び交い、セバスチャンが金に糸目をつけずに入院ライフを現実的かつ劇的に細工していく様などがシニカルでおかしい。「それもアリなんじゃない?」と思わせるニクい感じは、カナダとフランスの合作らしく自由な風潮とウィットの効いた感性がいい具合に調和しているためだろう。初老の人々の思いや会話をアバンギャルドかつ繊細に描いた本作は、世界的にシルバー世代が台頭するいまの時流によく合っている。

神秘的で雄大な自然を有するカナダ。本作にも湖畔の風景などが映し出され、とても美しい。カナダに対しては個人的に、マイケル・ムーア監督のドキュメント作『ボウリング・フォー・コロンバイン』にてオープンで寛容な国民性を知ってからちょっと憧れていたため、ますます好印象を深めた。カナダ公使館が東京に設置されてから75年という今年は、コンサートをはじめいろいろな関連イベントが行われるとのこと。この映画の試写会も実はカナダ大使館内にて館員の方のあいさつ付きで行われ、興味深かった。今年はこのちょっとした流れにのって、映画やイベントなどからカナダを体感してみるのもいいかもしれない。

作品データ

みなさん、さようなら
公開 2004年4月公開
シネスイッチ銀座、関内MGAほか全国劇場にて順次ロードショー
制作年/制作国 2003年 カナダ・フランス合作
上映時間 1:39
配給 コムストック
監督・脚本 ドゥニ・アルカン
出演 レミ・ジラール
ステファン・ルソー
マリー=ジョゼ・クローズ
協力 カナダ大使館
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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