伝説となる前、男は友と放浪の旅に出た……
南米大陸を縦断しながら人々と触れ合い、
青年が成長してゆく様を描いたロードムービー
チェ・ゲバラ。アルゼンチン人でありながら1959年のキューバ革命を勝利へ導いたことをはじめ、国籍や人種を超えて強い人類愛を貫き通した革命家。本作は世界中に愛された伝説の男が、好奇心旺盛な一介の若者エルネスト・ゲバラだった頃の物語。彼が23歳の医学生だったとき、友人アルベルトとともに中古バイクで南米大陸を縦断した際のことを自身で記した『チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行記』と、アルベルトの旅行記『With Che through Latin America』をもとに、1万キロ以上もの長い旅路のエピソードを綴ったロードムービーである。
アルゼンチンの裕福な家庭に生まれたエルネストは、試験はいつもトップクラスという優秀な医学生。喘息もちでありながらラグビーなどの激しいスポーツを愛好し、通称“フーセル(激しい心)”と呼ばれる明るい青年である。南米中を自分の目で見て回りたい、と常々思っていた彼は、7つ年上の友人である陽気な科学者のアルベルトとともに南米縦断の旅を計画。金もあてもないままざっくりとしたルートだけを決めて、2人は放浪の旅へと出発する。
アルゼンチンのブエノスアイレスを出発し、アンデス山脈を越えてチリ、そしてペルー、コロンビア、ベネズエラへ。貧しいために病気でも治療を受けられない老女、政治的信念のために土地を奪われたインディオの夫婦……。行く先々でさまざまな人々の生活にじかに触れるにつれ、エルネストは南米の不安定な社会情勢、貧富の格差、貧しい人たちの厳しい暮らしぶりに心を大きく揺り動かされる。のちに平等な理想の社会の実現を目指し、国を問わずゲリラ組織を指揮する革命家となる基盤は、この旅の体験から確立され始めたのかもしれない。
エルネストを演じているのは、メキシコ人の人気若手俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。内容がドキュメントに近い、それほど劇的な抑揚はない誠実なつくりになっているので、主人公に魅力的な旬の俳優を据えたのは大正解。行く先々で人々を魅了するエルネストのカリスマ性も、いい具合に表現されていた。アルベルト役であるアルゼンチン人の俳優ロドリゴ・デ・ラ・セルナは、実はチェ・ゲバラのはとこにあたる血縁者、というのもなかなか面白い。
本作を観たきっかけは、個人的に明るく情熱的な南米の音楽やダンスがとても好きだから、というごく単純なこと。南米の生んだ英雄が若かった頃のエピソードに、興味をもったからだった。実際に観たところ、資本主義社会に甘んじてそれなりに楽しく暮らしている身としては、いずれアメリカ帝国主義に真っ向から反発し、「すべての戦争を内乱へ」というスローガンを掲げて戦い抜く闘士となった彼の、理想と信念で青白く燃え上がるような純粋な精神は、居心地が悪く感じられるほどまぶしく思えた。試写の後に読んだ、三好徹氏の著作『チェ・ゲバラ伝』には“犯罪的に無関心”という表現があり、心を見透かされたような気がした。
1951年の当時から今も変わらず、観光地として愛される南米の美しい景観や陽気な市街地の趣も、もちろん楽しめる本作。当地への旅や音楽に惹かれるなら、ぜひ観てみるといいだろう。その興味の幅が、いっそう広く、深まってゆくかもしれない。
公開 | 2004年10月9日公開 恵比寿ガーデンシネマほか全国にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2004年 イギリス=アメリカ合作 |
上映時間 | 2:07 |
配給 | 日本ヘラルド映画 |
監督 | ウォルター・サレス |
脚本 | ホセ・リベーラ |
製作総指揮 | ロバート・レッドフォード |
原作 | チェ・ゲバラ『チェ・ゲバラモーターサイクル南米旅行記』 アルベルト・グラナード『With Che through Latin America』 |
出演 | ガエル・ガルシア・ベルナル ロドリゴ・デ・ラ・セルナ ミア・マエストロ |
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