海を飛ぶ夢

第77回アカデミー賞 外国語映画賞受賞作
スペインの才能が結集し、実話を基に映画化
深刻さも清々しさも臆さず描いた人間ドラマ

  • 2005/03/04
  • イベント
  • シネマ
海を飛ぶ夢

第77回アカデミー賞にて、外国語映画賞を受賞したシリアスなヒューマンドラマ。“尊厳死”を求めて裁判をおこしたガリシア人、故ラモン・サンペドロの手記『LETTERS FROM HELL』を映画化した作品である。そうはいってもひたすら気難しく暗い、というわけではなく、ラモンをとりまく家族や女性たちとの心の交流などを交えつつ、普段は正視することのあまりない生や死に対する意識を改めて見つめなおすことを促す、実直な作品である。

25歳の夏の事故以来、首から上以外の全身の自由を奪われ、寝たきりの生活を送り続けてきたラモン。彼は家族の絆や介護に支えられて穏やかに暮らしてきたが、26年目のある日、尊厳死を決意する。しかし自らそれを果たすことのできない身体のため、法律制度と闘うことに。そんななか、自らも難病を抱える美しい女性弁護士のフリア、2人の子供を育てるたくましいシングルマザーのロサがラモンのもとを訪れ、自分の思いや考えを互いに伝え合うようになる。

海を飛ぶ夢

「人生は生きる価値がある」。とても真っ当な言葉のはずなのに、現実の重さを前にすると、状況次第でそれは押し付けの理想論になってしまうこともある。映画とはいえ、これを目の当たりにしたときにはズシッときた。一般論の道義心なんて太刀打ちできないような積み重ねられた思い、誰もがわかってはいても意識して見ようとはしない多くのこと。身体の自由が利かないラモンの苦悩、愛、精神の解放。それらを悲壮感や感傷的な雰囲気などで飾り立てることなく、しっかりと描いている。

1日5時間のメイクをして、実年齢より20歳以上も上のラモンを演じたのは、演技派で知られる36歳のハビエル・バルデム。またフリア役はTVで人気のベレン・ルエダ、ロサ役はアルモドバル作品などで活躍するロラ・ドゥエニャスが好演。『アザーズ』『オープン・ユア・アイズ』を手がけた気鋭の若手監督アレハンドロ・アメナーバルのもと、スペインの映画界を代表する面々が集結している。
 胸を打つのは、スクリーンに時折映るガリシアのしっとりとした山々や澄んだ海などの美しい風景。とりわけ印象に残っているのは、ラモンが窓から空を飛ぶシーン。アメナーバル監督による一連の見せ方がとても上手く、見晴らしのいい景色と爽快な疾走感はあまりにも清々しく、涙がこぼれた。こうしたことを何万回思ってきたのだろう、と気の遠くなるほどの彼の永い永い時間に思いを馳せた。

海を飛ぶ夢

2004年の第76回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した作品『みなさん、さようなら。』と、奇しくも通じるものをもつ本作。テーマや状況、雰囲気などは似ているものの、実際に観てみると肌合いはまた異なる。ラモンの尊厳死という選択を受け入れる義姉や甥、許さない兄、複雑な思いを秘める父、揺れ動く周囲の人々。その場で当事者になってみなければわからない数々のこと。本作は実話を基にした作品であるため、よりシリアスであることは間違いない。人によっては本作を「つらすぎる」と思うかもしれないが、個人的には、観た後にいやな重さばかりが尾を引かないよう、よく練られているように感じられた。いずれにせよ、“心”が伝わってくる良作であることは確かである。

作品データ

海を飛ぶ夢
公開 2005年4月16日公開
日比谷シャンテ・シネほか全国ロードショー
制作年/制作国 2004年 スペイン・フランス合作
上映時間 2:05
配給 東宝東和
監督・脚本・音楽 アレハンドロ・アメナーバル
原作 ラモン・サンペドロ『LETTERS FROM HELL』
出演 ハビエル・バルデム
ベレン・ルエダ
ロラ・ドゥエニャス
マベル・リベラ
セルソ・ブガーリョ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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