バッド・エデュケーション

アルモドバル監督が綴る半自伝的物語
ガエル×フェレ、ラテン系美青年の競演による
光と影をヴィヴィッドに映したフィルム・ノワール

  • 2005/03/25
  • イベント
  • シネマ
バッド・エデュケーション

『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』などで知られるスペインの奇才、ペドロ・アルモドバル監督の最新作。「僕にはこれを撮る必要があったんだ」と自ら語る半自伝的作品の内容とは? 第57回カンヌ国際映画祭ではスペイン人監督作として初めてオープニングの上映に選ばれて絶賛され、アメリカでは公開前に17歳以下は鑑賞不可の“NC-17”という厳しい指定を受けた話題作。鮮やかな極彩色に濃い影をくっきりと落とす、アルモドバル流のフィルム・ノワールである。

1980年、マドリード。新進の映画監督エンリケ(フェレ・マルチネス)のもとへ、少年時代に神学校の寄宿舎で親友だったイグナシオ(ガエル・ガルシア・ベルナル)が訪れる。俳優志望のイグナシオはエンリケに脚本を渡し、映画化と出演を申し入れる。エンリケは昔の面影が感じられないイグナシオを訝しむものの、その脚本には2人が神学校で体験した出来事が詳細に綴られていた。

バッド・エデュケーション

人間ドラマと思いきや、サスペンスと思いきや、フィルム・ノワールだった、という意表をつく展開に驚かされ、惹きつけられた。過去と現在、劇中劇と現実が入れ子構造で描かれ、観る者を翻弄。推敲に推敲を重ね、構想に10余年を費やしたというだけあって、ギュッと濃縮された濃密な時間が流れる。アーティストとして才能みなぎるアルモドバル監督は、表現者としてますます成熟。神父による児童への性的虐待というデリケートな問題を織り交ぜつつ、作品としてしっかりと練り上げられている。

メキシコ出身の人気俳優ガエルは、ゴルチェのデザインによる衣装で妖艶な女装姿を披露。旬の俳優をこう使うか、と先鋭的なセンスを感じた。また筋肉をつけて減量し、声を低めにセクシーな役作りをしたスペイン人の若手俳優フェレも健闘。フェロモンの匂い立つラテン系美青年の競演は、それだけで女性ファンを十二分に酔わせることは間違いない。

バッド・エデュケーション

カトリック神父による児童や修道女への性的虐待の問題が次々と明るみに出ている近年。しかしアルモドバルは、この映画は自分に“バッド・エデュケーション”を施した神父たちへの復讐ではない、と語る。「教会の問題が内部に存在することは確かだ。でも、映画では情熱と愛情をもって描いたつもりだよ」。また彼はゲイであることを公表しているため、主人公がアルモドバル自身に思えたりもするが、「僕個人とは何の関係もない」とのこと。ただ、川辺や聖具保管室などのリアルな場面は、少年時代に友だちから聞いた話を参考にしたのだそう。「1970年代初頭、マドリードにあるカトリック・スクールの寄宿舎で時代を目の当たりにしてきたため、雰囲気や設定は僕個人の経験を反映しているかもしれない」とも。

少年時代の忌まわしきエピソードの中には、歌詞を変えた「ムーン・リバー」がボーイソプラノのソロで歌われるシーンがある。その歌声は、このままずっと聴いていたいと思わせるほど美しく澄みわたり、心が浄化されていくかのよう。しかしその純度の高さゆえ、貶められるときの絶望感は一段と暗さと重さを増す。そのきついコントラストは観客の目に心に、痛いほどくっきりと刻まれるのだ。

さまざまな人がいて、傷を負い、それでも生きていく。本作は気分の良くなる爽快な内容では決してない。けれど個人的には、観た後の気分は悪くなかった。私的な体験や思想をそのまま押し出すのではなく、丹念に磨き上げられ、作品として昇華されたものに出会うと、どこか気持ちが良くなるのはなぜだろう。それは、製作者の心の旅そのものが私たちの奥深くへ訴えかけてくる、明確な逞しさを感じるためかもしれない。

作品データ

バッド・エデュケーション
公開 2005年4月9日公開
テアトルタイムズスクエア、銀座テアトルシネマほか全国順次公開
制作年/制作国 2004年 スペイン
上映時間 1:45
配給 ギャガGシネマ
監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
出演 ガエル・ガルシア・ベルナル
フェレ・マルチネス
ハビエル・カマラ
レオノール・ワトリング
ダニエル・ヒメネス・カチョ
ルイス・オマール
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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