バットマン ビギンズ

闇のヒーロー誕生に迫る心理ドラマもなかなか。
監督・脚本・美術が一丸となって作り上げた
超バットマン・ワールドは一見の価値あり

  • 2005/06/10
  • イベント
  • シネマ
バットマン ビギンズ© 2005 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

前作『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲』から8年。アメリカン・コミックスの人気キャラ、バットマンの実写版シリーズ第5弾が完成した。監督・脚本は『メメント』『インソムニア』で知られ、本作が4作目となる34歳の気鋭クリストファー・ノーラン。彼の徹底したこだわりや美学に貫かれ、高いドラマ性、凝りに凝った美術や衣裳など、原作のイメージを忠実かつ劇的に表現。青年ブルース・ウェインがバットマンとなるまでの誕生のドラマを描く。キャスト&スタッフの徹底した気合でガツンと魅せるアクション・エンタテインメントである。

裕福なウェイン家の御曹司として幸せに暮らしていた少年ブルースは、目の前で両親を強盗に殺害されてしまう。罪悪感や復讐心、怒りにさいなまれ続けて青年となったブルースは、苦悩の道の出口を求めて失踪。放浪の旅へ出る。

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謎の男デュカードとの出会い、肉体の鍛錬、心的外傷(トラウマ)の克服、故郷ゴッサム・シティへの帰郷、身ひとつで強大な悪へと立ち向かうための準備、ゴッサムに迫る魔の手との闘い――。なぜブルースがバットマンとなったのか、伝説の背景と経緯が語られる本作。監督・脚本を手がけたノーランは、バットマン誕生のさまざまな説を吟味して要所に生かし、具体的なプロセスは脚本・原案のデイビッド・ゴイヤーとともにオリジナルで構築。また、バットマン仕様の特別車バットモービル、バットスーツや戦闘ツールなどはデザインをマニアックに追求。その質感と映像との絶妙なバランスが、観客をグッと力強くダーク・ヒーローのドラマティックな世界へと引き込む。

「リアルにいこう、リアルにいこう」。これはノーラン監督が製作から撮影までずっと繰り返していたモットーとのこと。ブルースはなぜコウモリの姿に身をやつすのか、派手な演出や衣裳はなんのためか、すべての展開や行為に動機や必要性の裏づけがさりげなくされているところが清々しい。また視覚効果は最小限にとどめ、カーチェイスも飛行シーンも実写にこだわって撮影されたとのこと。またロケ地のアイスランドでは吹き荒れる風速120キロもの天然の暴風をカメラに収め、1対1で刀を交えるシーンは湖に張った本物の氷上でなど、キャストもスタッフもリアルな迫力を求めて危険をものともせず撮影を敢行したのだそう。

本作では早い段階からノーラン監督の自宅にて、脚本・原案のデヴィット・ゴイヤーと美術デザイナーのネイサン・クロウリーとともに3人が一丸となって製作に没頭。クロウリーは作品の鍵となるデザイン模型を脚本に沿ったイメージで作り、美術と物語を同時進行で練り上げながら、世界観をはっきりと確立していったとのこと。こうして監督と脚本と美術とが密に交流しつつ製作を進めていくことは、ハリウッド大作ではとても稀とか。その掟破りで真っ当な手法が功を奏したのだろう、観ていると全体のトーンや辻褄がピシッと合っている爽快さを感じる。

バットマン ビギンズ

主演は前作『マニシスト』で不眠症の男を演じた若手俳優クリスチャン・ベール。前作の役作りのために減量した身体から+28キロで元の身体に戻し、さらに+9キロでバットマンにふさわしく筋骨隆々に調整したというボディはお見事。共演にはマイケル・ケイン、リーアム・ニーソン、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマン、そして日本の渡辺謙と、実力派の男衆が名を連ねる。

ネガティブな感情をポジティブなパワーへと昇華し、正義を貫くべく立ち上がる男の始まりの物語。通常は役者の絡まないシーンなどを撮影するために別途設定する第二監督もノーラン監督が自身で手がけ、細部までこだわり抜いたという本作。シリーズ作の中でも抜きんでて見ごたえのある物語と映像をとくとご覧あれ。

作品データ

バットマン ビギンズ
公開 2005年6月18日公開
丸の内ピカデリー1全国松竹・東急系にてロードショー
制作年/制作国 2005年 アメリカ
上映時間 2:14
配給 ワーナー・ブラザース映画
監督 クリストファー・ノーラン
脚本 クリストファー・ノーラン
デヴィッド・S・ゴイヤー
美術 ネイサン・クロウリー
衣裳 リンディ・ヘミング
出演 クリスチャン・ベール
マイケル・ケイン
リーアム・ニーソン
モーガン・フリーマン
ケイティ・ホームズ
ゲイリー・オールドマン
渡辺謙
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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