ヴェニスの商人

アル・パチーノV.S.ジェレミー・アイアンズ!
ロマンティックな水の都・ヴェニスを舞台に
シェイクスピアの傑作戯曲を名優たちが好演

  • 2005/08/05
  • イベント
  • シネマ
ヴェニスの商人

アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジョセフ・ファインズという演技派を迎え、シェイクスピアの傑作戯曲を初の映画化。16世紀のヴェニスを舞台に、人種差別、宗教問題、恋愛模様など、さまざまなドラマが繰り広げられる群像劇。中世ヨーロッパの耽美的で退廃的な雰囲気の中、俳優たちが名台詞を聞かせる悲喜劇である。

1596年のヴェニス。財産を食いつぶしたバッサーニオ(ファインズ)は、貿易商を営む親友アントーニオ(アイアンズ)に借金を申し込む。だが全財産が積荷となって海を渡っているアントーニオにも手持ちがなく、彼がバッサーニオの保証人となり、金貸し業のシャイロック(パチーノ)から借りることに。ユダヤ人であることから、アントーニオに迫害されたことを恨んでいたシャイロックは、「期限内に借金が返せなかったら、アントーニオの肉1ポンドをもらう」という異様な条件を打ち出す。そして期限を迎え、返済できないとわかると、シャイロックはアントーニオの肉を請求する裁判を起こす。

ヴェニスの商人

……という陰湿な復讐ドラマの背景で、ユダヤ教の娘とキリスト教の青年、無一文の騎士と大金持ちの女相続人、騎士の仲間と相続人の侍女、という若者たち3組の恋愛模様が展開。安易で軽薄で能天気、恋の始まりなんてそんなものかも、という俗っぽいノリで笑わせてくれる。

シェイクスピアの長台詞はすべてそのままというわけではなく、オリジナルを生かしながら会話向けにアレンジ。字幕はシェイクスピアの翻訳や研究で知られる東京大学名誉教授・小田島雄志氏の監修により、信頼できる仕上がりとなっている。本作では若い俳優たちの単調な台詞回しは少し退屈に思えたりもするが、オスカー俳優のパチーノやシェイクスピア俳優のアイアンズとなると段違い。迫力や説得力、真実味がズシッと増し、引き込まれる。人肉裁判の有名なくだりでは、パチーノとアイアンズによる神経衰弱ギリギリの駆け引きが、場の緊迫感を大いに盛り上げている。ファインズはどこか憎めない浪費家のぼんぼん騎士役を、また2003年に『恋は邪魔者』で映画デビューした新進女優リン・コリンズは女相続人ポーシャ役を好演。コリンズは透明感と遊び心、賢さと純粋さをあわせもち、どこかケイト・ブランシェットにイメージが重なる魅力的な女優。次回作はキアヌ・リーブスと共演の『Il Mare』とのことで、これからさらに人気や実力を伸ばしていくに違いない。

ヴェニスの商人

“シェイクスピアの傑作喜劇”といわれる『ヴェニスの商人』だが、本作では悲劇的で重厚な面も色濃い。オチとしては勧善懲悪であるものの、キリスト教が善でユダヤ教が悪、とあからさまに象徴されるところは観ていてあまり気分のいいものではない。当時はかなり酷いユダヤ人弾圧がヨーロッパ各地で起こっていたとのこと。シェイクスピアは風刺として、極端な社会情勢や多くの人々が当たり前にしている集団行動の不気味さを戯曲に描き出したのだろうか。ちなみに本作はアメリカでは、地域限定で公開されたようだ。
 また、ヴェニスの物語でありながら、登場人物たちの言葉はすべて英語。当然のようにイタリア語ではないのがちょっと可笑しかった。シェイクスピアが書いた37の戯曲のうち20篇がイタリアや地中海が舞台だが、実は彼はイタリアには一度も行ったことがなかった……とのこと。時代の流行作家らしい粗さもありつつ、それでも後世に残る名作を次々と生み出し続けた彼の豊かな創造力に軽く感動した。

さて、シリアスな裁判沙汰が決着すると、女たちが恋人に仕掛けた悪戯の顛末に一転。ちょっとしたスリルで、甘すぎる恋のアクセントにスパイスを効かせているところが小粋である。家族の絆や友情、人種や宗教、そして恋。いつの時代も、人が集えば何かが起こる。名優の共演で映像化されたシェイクスピア作品に、今も昔も変わらない人々の懲りない事情をみた。

作品データ

ヴェニスの商人
公開 2005年10月下旬公開
テアトルタイムズスクエアほかにてロードショー
制作年/制作国 2004年 アメリカ・イタリア・ルクセンブルグ・イギリス合作
上映時間 2:10
配給 アートポート、東京テアトル
監督・脚本 マイケル・ラドフォード
原作 ウィリアム・シェイクスピア
出演 アル・パチーノ
ジェレミー・アイアンズ
ジョセフ・ファインズ
リン・コリンズ<
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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