理想の女

夏の避暑地にもつれる社交界の男と女
無垢と成熟、2人の女性の先行きやいかに?
オスカー・ワイルドの洗練の名喜劇が蘇る

  • 2005/08/12
  • イベント
  • シネマ
理想の女

19世紀末、ヴィクトリア朝時代のイギリスに活躍した文豪オスカー・ワイルド。その名戯曲『ウィンダミア卿夫人の扇』をもとにした、台詞も映像も優雅な人間ドラマ。出演は『ロスト・イン・トランスレーション』でみずみずしい演技をみせたスカーレット・ヨハンソンと、『恋愛小説家』のオスカー女優ヘレン・ハント、そしてイギリスの実力派俳優たち。ワイルドらしいシニカルで洒落た会話と小気味いい展開で、最後の最後まで惹きつける上質な作品である。

富豪のロバートと新妻のメグ、若くて美しい2人はニューヨーク社交界の華。夫妻が南イタリアにある一流の避暑地アマルフィへバカンスに訪れた頃、さまざまな著名人たちとの愛人遍歴で悪名高いアーリン夫人もまた、アマルフィへ到着した。街に着くと、遊び人の英国貴族ダーリントン卿は初々しいメグに一目惚れ。そして骨董屋でメグへの誕生日プレゼントを選んでいたロバートは、アーリン夫人と出会う。

理想の女

「この世には2つしかない。夢が叶うか、夢が叶わぬか」。美酒を飲み、美食を好み、噂話や人生哲学に花を咲かせる。暇でスノッブな貴族たちのいつもの道楽。禅問答よろしく彼らの間で交わされる会話は、哲学のようであり、真理のようでもあり、アイロニーのようでもある。やはり“ダンディズムの巨匠”ことワイルドの繰り出す言葉は切れ味がいい。ふとした会話のはしばしにくっきりと美学を感じさせ、観る側の感性を心地よく刺激してくれる。

栄光と転落の両極を味わい、46歳で短い人生を閉じたワイルド。アイルランドのダブリンで名医の息子として生まれ、オックスフォード大学を卒業後、作家として成功。結婚して2児の父となり、順風満帆な人生を送っていた。が、実は彼は同性愛者であり、家族や世間に隠れて恋人の青年や男娼との関係が……。同性愛が法律違反であった当時、作家としての絶頂期に告発された彼は2年間の獄中生活を送る。そして釈放から3年後の1900年、家族も財産も創作力も失った彼はパリで没した、とのこと。みなぎる才気と野心、すべての成功を覆す致命的な秘密。皮肉なことに、際どく危ういバランスを保ちながら日々を過ごしていた彼だからこそ、独自の哲学はますます研ぎ澄まされ、作品に反映されていったのかもしれない。本作にも、まるで彼自身が呟いたかのような台詞がある。「女はすべてのことを理解している。自分の夫のことを除いては」。

理想の女

本作は1999年に映画化された『理想の結婚』(原題『An Ideal Husband(理想の夫)』)と同じく、社交界に集う人々をときに滑稽にときにハートウォームに描いたワイルドの代表的な喜劇のひとつ。原作ではイギリスの貴族階級である人々が、本作では避暑地に集う裕福なアメリカ人と、イギリスやイタリアの貴族とされている。またストーリーは原作のままでありつつ、舞台は1890年代のロンドンから1930年の南イタリアへ。2つの客間で展開するこじんまりとした室内劇から、自然も建物も美しい避暑地を背景に、開放感ある優美な仕上がりとなっている。仕立ての良いドレスやアンティークのジュエリー、豪華なヨットやアルファロメオのクラシックカーなど、古典とモダンがミックスされた当時の贅沢な雰囲気に浸れるのも楽しい。

夫を愛する無垢な新妻メグと、愛人として社交界を生き抜いてきたアーリン夫人。その勝敗は? という流れから、ある事実によって展開が一転する本作。大人のずるくてキナ臭いやりとりから、純粋な思いが自ずとあふれだす様への切り返しはお見事。思いがけず転機を迎えた2人の女性が迷走しながらもそれを乗り越え、人として女としてのレベルを1段深めるまでを小気味よく描いた物語。琥珀色の上等な白ワインのようにまろやかで芳醇、ほのかに爽やか。とても後味のいいエレガントな作品である。

作品データ

理想の女
公開 2005年9月下旬公開
シネスイッチ銀座ほかにてロードショー
制作年/制作国 2004年 イギリス・スペイン・イタリア・アメリカ・ルクセンブルク合作
上映時間 1:33
配給 ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
監督 マイク・バーカー
原作 オスカー・ワイルド
出演 スカーレット・ヨハンソン
ヘレン・ハント
トム・ウィルキンソン
スティーブン・キャンベル
マーク・アンバース
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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