親切なクムジャさん

韓流の異端児、チャヌク監督が放つ復讐シリーズ最終章
清楚なクムジャさんはある理由から誘拐殺人犯に…
復讐に向かって突っ走る女に、明日はあるのか?

  • 2005/09/09
  • イベント
  • シネマ
親切なクムジャさん

2004年カンヌ国際映画祭にてグランプリを受賞した韓国映画『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督による最新作。『復讐者に憐れみを』『オールド〜』に次ぐ、復讐三部作の最終章である。主演はチャヌク監督のヒット作『JSA』にてスイス将校を、現在NHK BS-2で放送中の人気TVドラマ『宮廷女官 チャングムの誓い』にて主役を演じた、韓国の国民的美人女優イ・ヨンエ。サスペンスあり、コメディあり、チャヌク監督流の独特のテンポとスタイリッシュな映像で魅せる愛憎ドラマである。

クムジャはある理由から、20歳の時に誘拐殺人犯として逮捕される。服役中、美しい顔に微笑みを絶やさず、いびられた新人や見捨てられた老婆の囚人を助け、表面的には模範囚として過ごしたことから、“親切なクムジャさん”と呼ばれるようになる。その後、13年の刑期を経て出所したクムジャは豹変。真っ赤なアイシャドウを引き、頭の中で13年間緻密に描き続けた復讐の準備を着々と開始する。

親切なクムジャさん

設定や物語だけみると、「それって『オールド〜』と同じでは?」とも思ったし、流れる雰囲気に通じるものがあるのは確か。けれど、それは予想ほど似通ってはいない。むしろ同じ“復讐”をテーマに似たような設定にしながら、異なる意図と方向性を描いているところが興味深い。『オールド〜』はすごすぎる無双の作品であり、比べるのは詮無いこと。これはこれで、それなりに魅せてくれる。

親切なクムジャさん

出所した囚人仲間と悪巧みを練り、職人として働き始め、失った実子を取り戻し、清純な青年をたらしこむ。往年の映画や小説でうらぶれた前科者のおっさんがする決まり事のすべてを、可憐なイ・ヨンエがする。まずそれだけでも、アンバランスさが可笑しい。本当に感心するくらい清廉なムードの女優さんなので、内容のハードさに存在の迫力が劣るのは否めないが、ファム・ファタルとして周囲を惹きつける危うい魅力、人間の愚かさや悲哀などを丁寧に表現していた。敵役は『オールド〜』で主演を務めた演技派チェ・ミンシク。彼の演技をもう少し観たい気もしたが、あれ以上彼を映したら主演を喰って目立ちすぎてしまうため、あれくらいで良かったのだろう。そのほか、『オールド〜』のユ・ジテやカン・ヘギョン、『復讐者〜』のソン・ガンホとシン・ハギュンと、復讐シリーズのメインキャストによるカメオ出演も話題となっている。

チャヌク監督の美学が反映された空間演出やファッションは、期待通りスタイリッシュ。オレンジ系の暖色を配したありえない刑務所内、赤と黒のラインが波打つコケティッシュな部屋、クラシックな水玉のワンピースに大きなサングラス、サディスティックなムードの黒革のトップスとブーツ。デカダンでモードな雰囲気が、泥臭くなりがちな復讐劇をキレイにサポートしている。さまざまな状況や心が投影された繊細なケーキもまた、美しい。こうしたものは理屈抜きで、やはり観ていて楽しいものだ。

親切なクムジャさん

3作にわたって描いたテーマ“復讐”について、監督は語る。「復讐とは、自己の怒りを他人にぶつけるものですが、その人間を殺しさえすればすべて解決する、という誤った発想から生じるものです。そうした自分自身の誤りを認識し、それを受け入れるまでの葛藤を乗り越えなければならない」。本作では、大きな傷を受けた人間の憎しみや哀しみ、人間性を破壊されるほどの深い絶望や恨みが描かれる半面、その対極にあるものも示される。それは、復讐という怨念に取り憑かれている間も、救いの手は差し伸べられる、ということ。それはまるで、天使のように。けれど妄執に取り憑かれた人間はそれに気づかない。できることなら、どうかそれに気づいて受け入れて欲しい――そんな思いが、ラスト近くで間接的に伝わってくる。

完璧じゃないからこそ愛される。どれほど地の奥底に堕ちた人間でも、救いは残される。“復讐”をテーマにしながらも、くっきりと響いてきたのはこの力強いメッセージ。展開や構成が目新しいわけではないが、どろどろの復讐シリーズの最終章でこうしたメッセージをくっきり放つ、という思想が好い。復讐三部作にて、前衛的でありながら愛をもって人の心の光と影を描く、という挑戦を果たしたチャヌク監督。これからも、彼の作品に注目していきたいと思う。

作品データ

親切なクムジャさん
公開 2005年11月公開予定
シネマスクウェアとうきゅうほか全国ロードショー
制作年/制作国 2005年 韓国
上映時間 1:52
配給 東芝エンタテインメント
監督 パク・チャヌク
脚本 チョン・ソギョン
パク・チャヌク
出演 イ・ヨンエ
チェ・ミシク
キム・シフ
キム・ブスン
イ・ソンシン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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