乱歩地獄

4つの乱歩作品を4人の監督が映像化
めくるめく愛の禁忌を犯していく人々の姿を
退廃的なエロティシズムとともに濃密に映し出す

  • 2005/09/23
  • イベント
  • シネマ
乱歩地獄©2005「乱歩地獄」製作委員会

江戸川乱歩の怪奇幻想譚『火星の運河』『鏡地獄』『芋虫』『蟲』の4作品を4人の監督が映像化。自己愛や偏愛など、行き過ぎてゆがみ、アートの域に触れ、あちら側の世界へと突き抜けていく特殊な愛の姿を描く。監督は以前にも乱歩作品を手がけた大御所の実相寺昭雄、ピンク映画界出身でカルトな支持を受ける佐藤寿保、ミュージックビデオやCMの良質な作品で知られ、本作が映画監督デビューとなる映像作家の竹内スグル、アメコミ的な画風と斬新なストーリーで人気を誇り、やはり映画監督デビューとなる漫画家のカネコアツシ。大正・昭和と現代との感性が出会って完成したオムニバス作品である。

乱歩地獄

『火星の運河』半裸で荒野を歩き続ける男(浅野忠信)が沼に映る自分を見ると、その体は恋人そっくりな女の肉体となっていた。『鏡地獄』鎌倉にて、茶席に出席していた師範と弟子が続けざまに変死。その傍らには、美しい和鏡があった。事件に興味をもった探偵の明智小五郎(浅野)は、鏡職人の齋透(いつきとおる・成宮寛貴)のもとを訪れる。『芋虫』戦争で両手両足を失い、胴体だけになった夫と、献身的に夫の世話をする妻(岡元夕紀子)。ひっそりと暮らす夫婦を、平井太郎(松田龍平)は屋根裏から監視している。

『蟲』女優の木下芙蓉(緒川たまき)に想いを寄せる、運転手の柾木(浅野)。一大決心で柾木は告白しようとするがうまくいかず、思いあまって芙蓉を殺害。その屍を自分の部屋に運んで悦に入るが、死体に腐敗が始まり……。

乱歩地獄

読み手の想像力を無限に掻き立てる作品のため、映像化は極めて難しいとされ、今回初めて映画化された4作品。竹内監督による観念的な『火星〜』、実相寺監督が狂気の閃きで魅せる『鏡地獄』、佐藤監督が猟奇とエロスを正確に映す『芋虫』、カネコ監督がブラックな笑いと悲哀を鮮やかに際立たせている『蟲』。原作から独自に抽出した濃密なエキスを、それぞれの監督が得意なフィールドで調理。“餅は餅屋”の発想が巧く貫かれている仕上がりだ。

メインキャラクターを演じるのは、浅野忠信、松田龍平、成宮寛貴。4作品すべてに出演する浅野はその存在で全体に統一感を与え、松田は原作にはない平井太郎(江戸川乱歩の本名)役を、持ち前の飄々としたムードで演じている。本作の白眉はなんといっても成宮寛貴。キレイな俳優さん、という印象しかなかったため、本当に驚かされた。本作では魔性の青年役に見事にハマり、薄く研ぎ澄まされた刃のような得体の知れない鋭さと狂気を、濃厚な花の香気のように強烈に放っている。実相寺監督との相性が良かったようで、監督自身も“若い人なんて信用してなかったけど、初めてああいう人に出会った。すごく気に入りました”と語っている。

乱歩地獄

究極を求めすぎるが故、ひどく残虐で一種ユーモラス。愛もまた然り。猟奇に倒錯に禁忌のエロス……これでもかとタブーが詰まった異形の愛を正視できるか? 晩秋、越えてはならない一線の向こう側を覗き見たら、あなたもあちらの住人となってしまうかもしれない。

作品データ

乱歩地獄
公開 2005年11月5日公開
シネセゾン渋谷、テアトル新宿にて拡大ロードショー
制作年/制作国 2005年 日本
上映時間 2:24
配給 アルバトロス・フィルム
監督 竹内スグル
実相寺昭雄
佐藤寿保
カネコアツシ
脚本 竹内スグル
薩川昭夫
夢野史郎
カネコアツシ
原作 江戸川乱歩
出演 浅野忠信
成宮寛貴
松田龍平
岡元夕紀子
緒川たまき
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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