ホルムズのスキャンダラスなミステリーを
カナダの異才エゴヤン監督が映画化
脳にハートに響かせる繊細なサスペンス
アメリカのエドガー賞受賞作家ルパート・ホルムズの傑作ミステリーを、カナダの異才アトム・エゴヤンの監督・脚本で映画化。出演は確かな演技で知られるケヴィン・ベーコン、コリン・ファース、活躍中の若手女優アリソン・ローマン。きらびやかな1950年代のショウビズ界で起きた事件の真実に、奔放な70年代に生きる若き女性ジャーナリストが迫る。時代、憶測、そして人の心……さまざまなことが万華鏡のように交錯する繊細なミステリーである。
1972年のロサンゼルス。野心的な女性ジャーナリストのカレンは、有名人の衝撃的な暴露本を執筆し、成功を収めようと目論んでいた。ターゲットは、女子大生の死体をめぐるスキャンダルをきっかけに15年前に解散した人気デュオ、ラニーとヴィンス。彼らに取材をオファーしたところ、高額な取材費や自ら執筆中の手記などを提示され、企画は頓挫。あきらめきれずに関係者を取材し、2人に交渉を続けていくうちに、カレンは自ら渦中に巻き込まれながらも事件の真相へと歩み寄っていく。
調べれば調べるほど深まってゆく、闇に葬られた事件の謎。時代や時間、いろいろな場面を行き来するため、最初は少し目が回るかもしれないが、だんだんと緻密な展開に惹きつけられていく。結末に向けて、全編にちりばめられたさまざまなピースがひとつひとつはまっていくところは見事。その鮮やかさは観ていて気持ちがいい。また本作は事件の解明だけに終わらない、落としどころが好い。良いか悪いか、役に立つか立たないかはわからなくとも、人にはそうせずにはいられないときがある。それは良心によるものであったり、魔が差すことであったり。ときには脆く狂おしく、ときには清く澄んでいく人の心の不思議が巧みに描かれているのは、エゴヤン監督の妙味だろう。
劇中では官能的なシーンも多く、ローマンは扇情的なシチュエーションでヌードを披露。紳士的でウィットに富んだイギリス人ヴィンス役をファースがあぶなげなく演じ、道化を演じる切れ者のアメリカ人ラニー役をベーコンが好演。やはりベーコンの演技は際立っていて、ラストには強く訴えかけてくるものがあった。
50年代のスキャンダラスなショウビズ界の裏側がよく描かれているところは、原作者ルパート・ホルムズの経歴を見ると頷ける。もともと作詞・作曲で成功し、1986年のトニー賞では『ミステリー・オブ・エドウィン・ドゥルード』にて、ブロードウェイ・ミュージカル部門最優秀音楽・作詩賞、最優秀ブック賞を受賞、近年ではエミー賞を受賞したTVシリーズ『Remember WENN』の音楽を手がけたとのこと。本作には、音楽や舞台やTV、映画や小説など幅広い分野で活躍してきた彼のキャリアが生かされているのだろう。きらめきと退廃、刹那ともの哀しさの漂うショウビズ関係者たちの描写はリアルだ。
事件の真相とともに明かされていく、人々の秘めた思い。直接的な描写があるため米国ではNC-17、日本ではR-18の成人指定(17歳以下、18歳未満は鑑賞禁止)とのことだが、頭と心、どちらで観ても満たしてくれる良質なミステリーである。
公開 | 2005年12月公開予定 シャンテ シネほかにて全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 カナダ・イギリス・アメリカ合作 |
上映時間 | 1:48 |
配給 | ムービーアイ |
製作・脚本・監督 | アンドリュー・ニコル |
監督・脚本 | アトム・エゴヤン |
原作 | ルパート・ホルムズ |
出演 | ケヴィン・ベーコン コリン・ファース アリソン・ローマン レイチェル・ブランチャード デヴィッド・ヘイマン |
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