シンプルに? 奥深く? 楽しみ方は自由自在
オオカミとヤギの異色の友情を描いた
大ヒット絵本シリーズをかわいらしく映画化
1994年の初版以来、累計発行巻数220万巻超というベストセラーの絵本シリーズを映画化。子供から大人まで、幅広い層に支持されるオオカミのガブとヤギのメイの物語である。脚本は原作者の木村裕一、監督は『銀河鉄道の夜』の杉井ギサブロー。声の出演は中村獅童、成宮寛貴。原作にある普遍的なテーマはそのままに、かわいらしい長編アニメーションとしてイメージも新たに制作された作品である。
嵐の夜、暗闇の中を山小屋に逃げ込んだオオカミのガブとヤギのメイは、互いがオオカミとヤギとは知らずに意気投合。再会を約束した翌日、互いのことを知って驚くも、2匹は“秘密の友だち”となる。が、“食べるもの”“食べられるもの”として対立する互いの仲間たちにそのことが知られ、2匹は窮地に追い込まれる。
ロミオとジュリエットに始まり、韓流に終わる。動物のアニメというお子様向け作品のようでありながら、普遍的なドラマの要素が上手に生かされていることに感心しきり。ここで終わったらちょっとありがち、エグいけど命の連鎖を明確に示す結末か? ……という何度かのクライマックスを経て、劇的なラストを迎えるまで、なかなか魅せ続けてくれる。
この物語には、動物たちの世界に人間関係や男女関係に通じる普遍的なドラマが投影されている。童話から戯曲まで豊かな制作経験をもつ原作者の木村裕一氏が脚本を担当したことで、映画でもキャラクターや物語に矛盾のない仕上がりに。長い物語をムリヤリ短くまとめた、という印象もなく、ほどよく見ごたえのある展開となっている。
世間知らずだけど好奇心と度胸のあるしっかり者の娘さん、というキャラのメイと、理屈でなく本能で生きるアウトローであっても実は気のいい青年、というキャラのガブ。美味しそうでたまらないメイに食らいつきたくても「友だちだから」と我慢するガブの葛藤は、すごくかわいいからといって即押し倒すわけにはいかない、という男性心理のようで面白い。また正反対なのにウマがあうメイとガブの会話や喧嘩は、男女の日常のようなノリが共感を誘う。さらにいうと、メイとガブはオス同士なので、禁断の愛の逃避行ととれなくもない。こうして観る側の想像力を刺激し、自由な感覚を引き出すところが、この物語の魅力だろう。
女性たちの注目を引くためか、声の出演はいま人気の中村獅童と成宮寛貴。中村はがらっぱちでも心のやさしいガブを、本作がアニメ声優初挑戦という成宮は、無邪気でも芯の強いメイをよく表現している。個人的に嬉しかったのは、メイのおばあさん役の市原悦子。子供の頃に観ていた『まんが日本昔ばなし』の影響か、ほのぼのアニメ画面で市原悦子の声を聞くと、こみ上げてくるものがある。
第六巻『ふぶきのあした』で一度は完結したものの、10歳の男の子から木村氏あてに届いたメッセージに触発され、2005年11月発刊の第七巻『まんげつのよるに』に帰結したというこの物語。映画では、11年にわたるシリーズ7作品すべてがひとつのドラマとして再構成されている。たかがオオカミとヤギのアニメーション、と侮ることなかれ。あなたの想像力に深く訴えかけてくる感動作なのである。
公開 | 2005年12月10日公開 日劇2ほか全国東宝邦画系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 日本 |
上映時間 | 1:47 |
配給 | 東宝 |
監督 | 杉井ギサブロー |
原作・脚本 | きむらゆういち |
声の出演 | 中村獅童 成宮寛貴 林家正蔵 山寺宏一 市原悦子 板東英二 |
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