批評家も絶賛したノンフィクションを映画化
湾岸戦争に派遣された兵士の手記を基に
戦争がもたらす本物の現実を生々しく伝える
NYの辛口批評家に“戦争文学の最高峰”といわしめた2003年の全米ベストセラー『ジャーヘッド-アメリカ海兵隊員の告白』の映画化。原作は1989年に海兵隊に志願し、1991年の湾岸戦争に関わった元海兵隊員による手記である。主演に人気の若手俳優ジェイク・ギレンホール、そしてベテランのクリス・クーパー、コメディアンや音楽家としても活躍中のジェイミー・フォックスと2人のオスカー俳優が共演。18歳の青年が軍に入り、戦争に関わっていくことの現実、報道されることのない兵士たちの乾いた日常や鬱屈した感情も臆さずに描いた生々しい記録である。
祖父と父に続くべく、海兵隊に入隊したスオフォード。隊員たちからの手荒い歓迎を受け、サディスティックな上官によるシゴキをこなすうちに、彼は狙撃兵として指名される。そして1990年8月のイラクのクウェート侵攻を機に“砂漠の楯作戦”が開始され、スオフォードら海兵隊は現地へと派遣される。
砂漠で共同生活を始めた彼らは、妻や彼女の写真を見せあって談笑し、祝祭日には禁止のはずの酒を煽って流行のサウンドで踊りまくる。その一面はまるで能天気な男子寮の生活のよう。しかし時間がたつにつれ、 重いストレスに精神が侵されはじめる。先の見えない膠着状態、実戦経験がないため役立つのかどうかもわからない軍事訓練、いつ爆撃を受けてもおかしくない砂漠での生活。極度の緊張を受けながらも待つのみ、という半年弱の時間は、平凡な人間をおかしくするのに十分すぎる時間だ。
実際、兵士たちの心配事で一番深刻なことは政局より何より、故郷に残した妻や彼女の浮気。それが引き金でノイローゼや諍いが起こる。またスオフォードは戦場で恐怖のために失禁し、あるときは仲間たちに隠れて吐く。本作に映し出されているのは英雄でもなんでもない、戦場に身を置いた普通の青年たちの姿。戦争とは人々にこういう体験をさせることだ、という事実がひしひしと伝わってくる。
監督は『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス。物語にするには難しいノンフィクションを慎重に扱い、テーマや内容をそのままにしっかりと映像化させている。クーパーとフォックス、2人のオスカー俳優の好演はいわずもがな。セクシーな野性味と素朴さをあわせもつギレンホールが、戦場で影を帯びていく青年スオフォードをリアルに演じている。
15年前の事実がいま映画化された理由は、2003年の原作の発表からスタッフ・キャストの選別や脚本の熟考など、単純に製作にかかった時間とその結果だろう。しかし2001年の9・11を経て、世界中に不穏な要素がくすぶっている今、ノンフィクションベースの戦争映画の公開はとても意味があるのではないだろうか。
公開 | 2006年2月11日公開 日劇1ほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 アメリカ |
上映時間 | 2:03 |
配給 | UIP映画 |
監督 | サム・メンデス |
脚本 | ウィリアム・ブロイルズJr. |
原作 | アンソニー・スオフォード |
出演 | ジェイク・ギレンホール ピーター・サースガード ジェイミー・フォックス クリス・クーパー |
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