ヴェンダース×シェパードの名コンビ再び!
身勝手な男の後悔と再生、家族のつながりを描く
あたたかく個性的なヒューマン・ドラマ
20年の時を経て、名コンビ再び。1984年のカンヌ国際映画祭にて最高賞パルム・ドールを受賞した名作『パリ、テキサス』の監督ヴィム・ヴェンダース、脚本サム・シェパード。“完璧な体験”後に再び組むのを躊躇していたという2人が再考を重ね、3年かけて作り上げたという作品である。監督自ら“最高傑作”と語るにふさわしく、個性的で人間らしい、とても爽やかな味わいのヒューマン・ドラマである。
かつては西部劇のスター、今は落ちぶれた初老の俳優ハワード。映画の撮影現場から衝動的に逃げ出した彼は、30年ぶりにネバタ州の年老いた母のもとへと帰る。久しぶりに再会した母から、「ハワードの子を妊娠した」という電話が20年前にあったことを聞かされた彼は、自分に子供がいるかもしれないことを知る。
物語はユタからネバタ、そしてモンタナへ。カウボーイが馬で走るシーンに始まり、クラシックカーで旅をして、モンタナの小さな町で展開する。現代の設定ではあるものの、ルーツサウンドとアメリカの原風景によって普遍的な古きよきアメリカを感じさせる仕上がりだ。
男たちは子供っぽく、女たちは母性的。登場人物は皆人間臭く、行き当たりばったりの様子がリアルで面白い。なかでもハワードはだらしなく、酔いつぶれては女たちをベッドに連れ込む悪癖の持ち主。真面目に家族を探す道中でもそうなのだから、情けなさすぎて笑える。また、急に現れた父親に反発する息子のエキセントリックな言動があまりにも父親似、というのがこれまた可笑しい。“家族”“血のつながり”の間接的な表現がときにはユーモラスにときには繊細に、胸にしみじみと伝わってくる。空虚に生きてきたハワードは、彼を愛する女たちの思いや家族の存在を知り、受け入れていくことで満たされる。不器用に脱線しながらも皆が新たな道を見出していく経緯は、とてもあたたかく素晴らしい。
「人生でこれ以上のキャスティングに恵まれたことはない」とヴェンダース監督が語るキャストは、主演に本作を手がけた脚本家にして俳優のサム・シェパード。共演にシェパードの実生活のパートナーであるオスカー女優ジェシカ・ラング、注目の若手俳優ガブリエル・マン、やわらかな存在感が印象的な女優サラ・ポーリー。またハワードの母を演じた『北北西に進路を取れ』の名優エヴァ・マリー・セイント、私立探偵役にティム・ロスが参加。音楽はカントリーやブルースなど、『オー・ブラザー!』のT-ボーンが監督のこだわりをしっかりと表現している。
賞レースではほとんど話題にのぼっていないが、そんなことは問題ない。ややこしい家族が彼らなりのシンプルな幸福へと向かっていく、とても気持ちのいい佳作である。
公開 | 2006年2月18日公開 シネスイッチ銀座ほかにてロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 ドイツ=アメリカ |
上映時間 | 2:04 |
配給 | クロックワークス |
原案・監督 | ヴィム・ヴェンダース |
原案・脚本 | サム・シェパード |
音楽 | T-ボーン・バーネット |
出演 | サム・シェパード ジェシカ・ラング ガブリエル・マン サラ・ポーリー エヴァ・マリー・セイント ティム・ロス ジョージ・ケネディ |
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