ウディ・アレンがロンドンで返り咲き!
コンプレックス、野心、情念、欲望……
野心家の男の顛末を描くシリアスな人間ドラマ
NYを愛し、NYを舞台に映画を撮り続けてきたウディ・アレンがイギリスに移住し、ロンドンを舞台に作り上げた作品。主演は『ベルベット・ゴールドマイン』のジョナサン・リース・メイヤーズ、共演はアメリカの男性誌『FHM』にて“世界で最もセクシーな女性100人”のNo.1(2006年)に選ばれたスカーレット・ヨハンソン。2006年のアカデミー賞脚本賞のノミネート作であり、“運に恵まれた”男がたどるシリアスな人間ドラマである。
テニスコーチとなった野心家の元プロテニス・プレイヤー、クリスは、大金持ちのトムと知り合う。セクシーなトムの婚約者ノラに惹かれつつも、クリスはトムの妹クロエと結婚。義父の経営する大企業で重役となり、上流階級の暮らしになじみ始めた頃、クリスは街でノラと再会する。
祝、ウディ・アレン復活! 重いテーマだが、観る者を強く引き込む力のある作品だ。アレン監督作に多い、自身を投影するキャラクターは本作では登場せず、人物それぞれの野心、情念、欲望が絡み合い、思いがけない顛末を迎えるまでを客観的な目線でとらえている。『マクベス』など荘厳なオペラの名曲を全編に使用していることもあり、まるで戯曲を観ているかのよう。人の自我や熱意が引き起こす成功や悲哀がシニカルに描かれている。
設定だけで読むと絵に描いたようなメロドラマのようにも思えるが、表現が深い。アイルランド人のしがないテニスコーチのクリスがロンドンの上流階級の人種に抱くコンプレックスと侮り、生まれつき裕福なトムとクロエのきまぐれで無邪気な傲慢さや残酷さ、不幸な生い立ちを背負い、魅力的な容姿と身体を頼りに幸福や成功を手に入れようともがくノラ。彼らの関係性はふとした瞬間にはっきりと印象付けられ、リアルな感情が紡がれてドラマになっていくところがすごく魅力的だ。
ロンドンで初めて撮影した本作で成功を収めたアレン監督。皮肉で哲学的で偏屈、古きよきものを愛する職人気質。アレンといえばNY、というイメージはあるものの、確かにヨーロッパの雰囲気や感覚はアレン監督にぴったりだ。過干渉のハリウッド・スタジオへの反発や、ここしばらくアメリカでは興行的成功がふるわず資金調達が難しくなっていたことから、仕事と生活の拠点をイギリスに移したアレン監督は、ロンドンでの映画製作にとても満足しているとのこと。アレン監督の名のもと、低予算でも優秀なスタッフやキャストがしっかり集まるそうで、本作についても「非の打ち所のないキャスト」とコメント。隅々まで行き届いた丁寧な感触は、監督が切望したというメイヤーズなど主要キャストが作品にぴったりというだけでなく、脇役まで実力のある役者が揃っているために違いない。
ラストは背筋がスッと冷える、苦みばしった後味の本作。晩夏、新たな活動の場を見出し、70歳にしてなお制作意欲に燃えるアレン監督の復活作で、憂いに浸ってみるのもいいだろう。
公開 | 2006年8月19日公開 恵比寿ガーデンシネマ、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2005年 イギリス |
上映時間 | 2:04 |
配給 | アスミック・エース |
脚本・監督 | ウディ・アレン |
出演 | ジョナサン・リース・メイヤーズ スカーレット・ヨハンソン エミリー・モティマー マシュー・グード ブライアン・コックス ペネロピー・ウィルトン |
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