記憶の棘

音楽とCMの世界で受賞歴多数の映像作家
グレイザーが仕掛ける哀しくも甘いミステリー
ショートヘアのキッドマンを最高に美しく

  • 2006/08/04
  • イベント
  • シネマ
記憶の棘© 2004 NEW LINE PRODUCTION INC.

ベリーショートのニコール・キッドマンを美しい映像で見せる作品。ミュージックビデオやCMで数々の賞を獲得してきたイギリスの人気映像作家ジョナサン・グレイザーによる2作目の長編映画。甘く切ないトーンに彩られた、冬のNYを舞台に描く叙情的なミステリーである。

10年前、最愛の夫ショーンを亡くしたアナ。その悲しみからようやく立ち直った彼女は、ずっとそばで支え続けたジョゼフと婚約する。穏やかな日々を過ごしていたその時、見知らぬ10歳の少年がアナに「結婚しないでほしい」という。「僕はショーン、君の夫だ」と――。

記憶の棘

亡夫の生まれかわりと主張する少年によって、乱されていく大人たちの調和。輪廻がモチーフになってはいるが、それはさほど深く描かれていない。本作はなんといっても、キッドマンの新鮮なヴィジュアルを堪能するプロモーション・ビデオのようなもの。インテリアや空間など背景すべて、周囲にいる人々さえ、彼女を美しく見せるための演出と感じさせるほどだ。「ジョナサンのヴィジョンの一部になれて光栄だった」というキッドマンのコメントが、まさに一言で物語っている。

記憶の棘

セントラル・パークの雪景色をはじめ詩的な風景も多く、少年とアナが公園に佇むシーンはまるでポートレートのよう。公園内のトンネルを流れるようにくぐっていく映像は、“産まれる時”の暗喩だろうか。原題の『Birth』にリンクする。また、アナの暮らすアッパー・イーストサイドの高級アパートは、アンティークのイスや照明が配され、明るいグリーンの壁紙などを合わせた洗練の空間。キッドマンのグリーンがかった綺麗なブルーアイがとてもよく映える仕上がりだ。

本作の監督グレイザーは、音楽とCMの世界で活躍。97年にMTVビデオ・アワードにて監督賞を、代表作であるジャミロクワイの「Virtual Insanity」ではMTVアワード10部門を受賞。CMではナイキやリーヴァイスなどを手がけ、ギネスの「Surfer」では英国の国際的な広告賞D&ADアワードを受賞、という華やかな経歴の持ち主。この映画ではグレイザーの原案をもとに、2人の脚本家が参加。ダライ・ラマとの共著があり、輪廻の知識をもつフランス人脚本家のジャン=クロード・カリエール(『存在の耐えられない軽さ』)、NYで生まれ育ったマイロ・アディカ(『チョコレート』の共同脚本家)、グレイザー監督、3人の共同執筆となっている。

記憶の棘

共演に名女優ローレン・バコールらを迎えつつ、物語よりも映像で魅せるという贅沢な本作。ニュアンス作りに素晴らしい才気を発揮するグレイザー監督に、いつか暗喩などを幾重にも効かせた深いストーリー性のある作品を撮ってほしい……と個人的に思った。

作品データ

記憶の棘
公開 2006年9月公開予定
日比谷シャンテシネ、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2004年 アメリカ
上映時間 1:40
配給 東芝エンタテインメント
監督 ジョナサン・グレイザー
脚本 ジャン=クロード・カリエール
マイロ・アディカ
ジョナサン・グレイザー
出演 ニコール・キッドマン
キャメロン・ブライト
ダニー・ヒューストン
ローレン・バコール
アリソン・エリオット
アーリス・ハワード
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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