ブルース・ウィリス主演、『リーサル・ウェポン』のリチャード・ドナー監督、共演にラッパーのモス・デフと演技派のデヴィッド・モース。落ちぶれた刑事と軽犯罪者の青年が、事件をきっかけに誇りを取り戻す様を描く。男臭く華やかさに欠けるも、後味のいい人情ドラマを織り込んだ、実直なアクション映画である。

夜勤明けで二日酔いのNY市警刑事ジャックは、ある証言者の護送を請け負う。閉廷の午前10時までに、軽犯罪者のエディを16ブロック先の裁判所へ届けるべく、2人は午前8時すぎに出発。が、護送中、しゃべり続けるエディに苛立ったジャックが車を留めて降りると、エディが殺し屋に襲撃される。

今日の酒にありつければそれでいい、という投げやりな態度の刑事ジャックは、思いがけない展開に本来の正義感が蘇る。エディが刑事の不正の目撃者として命を狙われている、と知ったジャックは彼を連れて逃走。一部の刑事グループから執拗に追われることに。閉廷の10時までにエディを裁判所に送り届けることができるか？　物語は『24』ばりにほぼリアルタイムで展開する。

ハイテクには弱いが、切れ者で先まで見通して行動するジャックと、楽観的で信心深く、その時の気持ちを大切にする衝動的なエディ。正反対の2人には、過去の負い目から立ち直ろうとしている局面、という共通項がある。誰が悪人で誰が善人なのかはグレーな印象のまま、クライマックスで「そうきたか！」と展開。誰にでも毎日ある、ささいな決断の積み重ね。その良し悪しなど、後になってみなければわからない。そしてそれは後に現実を大きく動かす場合もある。そんな生々しいスリルが伝わってくることが本作の魅力だ。

ハードなアクション俳優として知られるウィリスは、役作りのためたるんだ腹と薄い髪のウィッグでだらしない中年姿に。エディに振り回されながらも義を貫こうとするジャックを好演している。意外とよかったのが、エディを演じたモス・デフ。その場しのぎの薄っぺらな青年と思いきや、それなりに独自の思想の持ち主であるエディを魅力的に体現。心の暗黒と温かさ、双方を考えるより先に刹那的に表すところなど、独特の存在感と懐の深さを感じさせた。アクション映画でもストーリーが添え物にならず、人物の背景や魅力がしっかり練り上げられているのは、原案・脚本のリチャード・ウェンクとドナー監督の確かなコンビネーションによるところだろう。

「人間は絶対に変わらない（ジャック）」か、「人間は必ず生まれ変わることができる（エディ）」か。エンディングにバリー・ホワイトの歌声が響く時、「粋だね」としみじみするのは、きっと私だけではないはずだ。