カポーティ

人犯は死刑が延期に、作家は闇に囚われ…
かの傑作はこうして生まれた――。
創作をめぐるノンフィクション・ムービー

  • 2006/09/01
  • イベント
  • シネマ
カポーティ

2006年アカデミー賞にて、主要5部門ノミネート、主演のフィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞を受賞した話題作。『ティファニーで朝食を』などを執筆した作家トルーマン・カポーティが、自身の最高傑作『冷血』を書き上げるまでの苦悩と葛藤に満ちた経緯を描く。ひとりの作家が“ノンフィクション・ノベル”というジャンルを開拓し、後世に残る作品を創出するまでの舞台裏を伝える、ドキュメンタリータッチの人間ドラマである。

1959年、カンザス州の田舎町で一家4人惨殺、という殺人事件が起こる。トルーマンはこの事件をベースに小説を執筆すべく、捜査を担当する保安官や第一発見者を取材。生々しい痕跡の残る現場や遺体の安置所を訪ね、逮捕された2人組の犯人と面会。殺人犯の1人であるペリーに、自分と同じ孤独で傷つきやすい内面を感じとったトルーマンは、事件の全容と小説の執筆に深くのめり込んでいく。

カポーティ

その先は底なし沼。ブラックホールのようにどこまでも続く、永遠のように広い闇。そういうものに触れそうになった時、人間は自然とそれを回避する。が、トルーマンは渦中へと踏み入った。小説家としての野心があり、ゼロから地位を築いてきた自己過信もあったかもしれない。トルーマンの小説の一部が発表されると、ペリーらの死刑は延期に。しかし死刑が執行されないと、小説が完結しない。のっぴきならないところまできた時、小説を書き上げるために利己的に徹していたはずの彼の心は、まっぷたつに引き裂かれることになる。

1950年代を中心に活躍したトルーマンは、封建的な風潮の残る時代にゲイであることを公表していた人物。軽妙な毒舌、辛口のユーモアによる巧みな話術で常に周囲を魅了。調査と執筆に6年を費やし、1966年に発表して大成功を収めた『冷血』以後、長編を完成させることはなかったという。晩年はアルコールやドラッグ依存、うつ病を抱え、1984年に友人宅にて心臓発作で急逝した。享年59歳。

カポーティ

もともと性格俳優として実力が認められていたホフマンは、本作のトルーマン役でオスカーを受賞。コアな映画ファンのみならず、その名を一気に知らしめた。最初は躊躇したというホフマンだが、出演を決めると役作りに集中。製作総指揮を兼任し、トルーマン本人の高い声色、ジェスチャーやクセを熱心に研究して取り入れ、真に迫る演技を貫いている。トルーマンの幼馴染にして女流作家ネル・ハーパー・リー役は、演技派のキャサリン・キーナー。髪を切ってノーメイクに徹し、誠実な役作りで物語の流れを支えている。

常人には経験し得ない創作をめぐる体験と心情。それを真摯に物語へと昇華したノンフィクション・ムービー。良し悪しでは量れない人の心の暗黒と深遠に触れ、静かな恐怖を感じさせる作品である。

作品データ

カポーティ
公開 2006年9月30日公開予定
日比谷シャンテシネ、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー
制作年/制作国 2006年 アメリカ
上映時間 1:54
配給 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督 ベネット・ミラー
脚本・製作総指揮 ダン・フッターマン
原作 ジェラルド・クラーク
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン
キャサリン・キーナー
クリス・クーパー
クリフトン・コリンズJr.
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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