平成から昭和の世界へと導かれた男は
若すぎた兄の死や横暴な父の事情を知る
ファンタジックな手法のヒューマンドラマ
出演に堤真一、岡本綾、常盤貴子、大沢たかお、監督に篠原哲雄、音楽に小林武史。充実のメンバーにより、1995年の第16回吉川英治文学新人賞を受賞した浅田次郎の同名小説を映画化。現代を生きる男が地下鉄を通じて現在と過去のタイムスリップを繰り返し、兄や父親の秘められた事情を知っていく。ファンタジックな手法で描かれたヒューマンドラマである。
小さな下着メーカーの営業マンである真次に、父親が入院したと連絡が入る。が、高校卒業と同時に縁を切って以来20数年会っていない父を見舞うつもりはない。今日が若くして死んだ兄の命日であることを思い出し、地下鉄の駅を歩き始めると、兄によく似た背格好の青年が目に留まる。思わずその後ろ姿を追って階段を上っていくと、そこには真次が少年時代を過ごした昭和39年の町並が広がっていた。
私たちの親や祖父母は激動の時代を生き抜いた、ということをとてもわかりやすく伝える作品。生きること、死ぬこと、親子の絆、生まれてきたことへの感謝や喜びなどのシリアスなテーマが、エンタテインメントとしてとても親しみやすく描かれている。真次の心情を軸に、昭和を生きるアムールとお時、真次の恋人であるみち子の物語を紡ぎ、数々の事実が明かされていく中、クライマックスは思いがけない展開へ――。原作は浅田氏の“自伝的小説”といわれ、「アムールはまさに父そのもの」と自らも語っているのだそう。
堤真一は昭和を追体験して父への理解を深める真次役を、岡本綾は真次とともに時代を往来する恋人のみち子役を、常盤貴子は終戦直後の混沌とした東京をタフに生きるお時役をそれぞれに好演。思いのほか印象的だったのは、1人の男の少年から青年、中年時代まで20年に渡る姿を演じきった大沢たかお。持ち前のソフトで繊細なイメージとは異なる強引でふてぶてしい男アムールを演じ、いかにして傲慢な男になったか、という人格の移り変わりを自然体で力強く表している。また、脇を固める出演者も実力派ばかり。真次の恩師役に舞踏家・田中泯を配し、その独特の不可思議な存在感をタイムトラベルの足がかりにしていることは、篠原監督の優れた演出力ゆえだろう。
今ではレトロブームのキーワードのひとつとなっている“昭和”という時代。そのファッションやデザインがあった頃、親や祖父母はどのように青春を過ごしていたのか。ただ平和に安穏と暮らす今の生活に心からありがたいと思う、謙虚な気持ちを引き出す本作。親や祖父母に久しぶりに手紙を書いたり、会って孝行したり…その術中にまんまとハマってみるのも、悪くないに違いない。
公開 | 2006年10月21日公開 丸の内ピカデリー2ほか全国松竹・東急系にてロードショー |
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制作年/制作国 | 2006年 日本 |
上映時間 | 2:01 |
配給 | ギャガ・コミュニケーションズ |
監督 | 篠原哲雄 |
脚本 | 石黒尚美 |
音楽 | 小林武史 |
原作 | 浅田次郎 |
出演 | 堤真一 岡本綾 大沢たかお 常盤貴子 吉行和子 田中泯 笹野高史 北条隆博 |
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