ハンニバル・ライジング

人喰い殺人者ハンニバルの生い立ちと目覚め
戦争のトラウマを負った少年が悪夢の果てに
暗黒の自我に行き着くサイコ・サスペンス

  • 2007/04/20
  • イベント
  • シネマ
ハンニバル・ライジング

伝統と洗練を好み、愛するものを汚す者、自分の行く手を阻む者は容赦なく殺す。かのハンニバル・レクター博士は、なぜあれほどまでに超人的かつ残忍なシリアルキラーとなったのか。出演は『ロング・エンゲージメント』の若手フランス人俳優ギャスパー・ウリエル、中国人女優コン・リー、監督は『真珠の耳飾りの少女』のピーター・ウェーバー。レクター博士の幼少期〜青年期、そして人喰い殺人者となるまでの所以を描くサイコ・サスペンスである。

1944年のリトアニア。名門貴族の家系であるレクター一家はナチス・ドイツ軍の侵攻を避け、住み慣れた城から山小屋に避難するが、空爆によって夫妻が死亡。幼い少年ハンニバルと妹ミーシャが取り残される。目の前で両親を亡くしながらも山小屋に兄妹2人きりで耐え過ごしていると、身勝手な逃亡兵5人組が押し入り、兄妹を縛り上げて篭城。悪夢のような時が過ぎ、ハンニバル独りがソ連軍に保護され、リトアニアの孤児院で過ごす頃には、彼は他者との会話を拒み、記憶の一部を失っていた。

ハンニバル・ライジング

無垢な少年がトラウマを負って心を閉ざし、青年となって生まれもった極端な資質を磨き上げてゆくまで。孤児院を抜け出したハンニバルはヨーロッパに暮らす叔父を訪ね、日本から嫁いできた叔母レディ・ムラサキと出会う。レディ・ムラサキはトラウマを抱えた甥をいたわり、華道や武道、食事や暮らし向きなどを教授。日本の文化が海外の視点で取り入れられているところが興味深い。原作者トマス・ハリスは本作のプロデューサーから請われて原作小説を書き上げ、シリーズで初めて脚本を執筆。人前にあまり出ずにプライベートを重んじるというハリスだがこの企画にとても入れ込み、ウェーバー監督をマイアミの自宅に招いて脚本を練り上げていったそうだ。

ハンニバル・ライジング

主演のウリエルは面長の美しい顔の左頬だけがひきつるように引き上がる表情で不気味さを表現。ホプキンスの出演はないものの、「彼の目のしばたき方、動きや演技を注意深く観察した」というウリエルが後半シーンでみせる、「Good evening, Mr.〜」と暗闇から囁くお決まりのシーンでは、「これこれ!」という絶妙な間合いでキメてくれる。『SAYURI』に続いて中国人でありながら日本人を演じたコン・リーは、日本の伝統的な美学を正しく醸していたかどうかはともかく、母性と女の間(はざま)で揺れる微妙な立場と感情を繊細に潔く演じていた。

ハンニバル・ライジング

スター・ウォーズよろしくエピソード1が登場したハンニバルシリーズ。これで本作、『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル』と、美学と戦慄のハンニバルワールドにファンはどっぷりと浸ることができる。もうないとは思うが、もし次作があるなら『ハンニバル』の後、クラリスがどのようにハンニバルとつながっていくのかが知りたい、と思うのは筆者だけだろうか。

作品データ

ハンニバル・ライジング
公開 2007年4月21日公開
日劇PLEXほか全国《超拡大》ロードショー
制作年/制作国 2007年 イギリス・チェコ・フランス・イタリア合作
上映時間 1:35
配給 東宝東和
監督 ピーター・ウェーバー
製作 ディノ&マーサ・デ・ラウレンティス
原作・脚本 トマス・ハリス
出演 ギャスパー・ウリエル
コン・リー
リス・エヴァンズ
ケビン・マクキッド
ドミニク・ウェスト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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