ボルベール<帰郷>

アルモドバル監督×C・マウラ×P・クルス
3世代の女たちが背負った秘密とは?
深刻で笑って泣けるラテン系の人間ドラマ

  • 2007/06/01
  • イベント
  • シネマ
ボルベール<帰郷>

スペインが誇る異才ペドロ・アルモドバル監督の最新作。2006年の第59回カンヌ国際映画祭にて最優秀脚本賞とあわせて、主演のペネロペ・クルスをはじめ6人の女優全員が最優秀女優賞を受賞するという格別の評価を得た作品である。スペインのラ・マンチャとマドリッドを舞台に、母、娘、孫娘と3世代の女たちに起きた事件と告白、罪と贖い、そして何があってもひたすらに生きていく、たくましい姿を描く。ショッキングでありながらも笑って泣ける、アルモドバル式のヒューマン・ドラマである。

気の強いライムンダが母を拒んでいた10代の頃、両親が火事で死亡。故郷のラ・マンチャで両親の墓参りの帰り道、愛娘と姉と共にライムンダが年老いた伯母のもとを訪ねると、母の幽霊が現れるという噂を耳にする。その後、ある大事件を経て、娘との生活を維持しようと必死になっていたライムンダの前に、母が忽然と現れる。

ボルベール<帰郷>

アルモドバル監督は自らの故郷ラ・マンチャを描いた本作に寄せて、「自分や愛する人たちの死だけでなく、すべての死を受け入れることができず、近年生きることも辛かった」と告白。「ラ・マンチャへ戻ることは母の胸に戻ること。この作品を製作することで私にはたくさんの恵みがあった」とも語っている。

アルモドバル作品のお約束である原色のヴィヴィッドな世界は今回も鮮烈。ノスタルジックなデザインのファッションやアクセサリー、花柄や幾何学模様のファブリック、中庭のある家やモダンなアパートメントはどれも魅力的だ。モグリの美容師をしているおっとりとした姉、情熱的で気が強いがんばり屋の妹、向こうっ気の強いティーンネイジャーの孫娘、ヒッピーの母が自慢の隣人、そしてユーモラスでたくましい母などなど、さまざまな女たちの個性をはっきりと打ち出しているスタイルが印象的だ。

ボルベール<帰郷>

近ごろ大人気のクルスはハリウッドのスター女優としてヒロインを演じることも多いが、本作では下町の若きおっかさんを熱演。つっけんどんで勢いのある話し方、どこか人情味のある雰囲気が堂に入っている。監督と19年ぶりのコラボで話題になっているカルメン・マウラが母役を、本国では演技派として知られるロラ・ドゥエニャスが気の強い母と妹の間に立つ姉を、それぞれ自然体で演じている。

ボルベール<帰郷>

故郷を偲ぶ歌として、スペインでもさまざまなアーティストたちによって歌い継がれ、“不朽のタンゴ”と呼ばれる名曲「VOLVER」。本作ではフラメンコギターと手拍子のリズムによる素朴な風合いで、哀しくも温かく、力強い女たちの生き様をそっと包み込んでいる。アルモドバル監督の永遠のテーマである“母性”をデリケートに讃えるかのように。

作品データ

ボルベール<帰郷>
公開 2007年6月30日公開
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2006年 スペイン
上映時間 2:00
配給 ギャガ・コミュニケーションズ配給
監督・脚本 ペドロ・アルモドバル
出演 ペネロペ・クルス
カルメン・マウラ
ロラ・ドゥエニャス
ブランカ・ポルティージョ
ヨアンナ・コバ
チュス・ランプレアヴェ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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