やわらかい手

凡庸な中年主婦が歓楽街一の売れっ子に
どん底で初めて家族の絆や愛のありかを知る
風俗店を背景に普遍的なテーマを描く温かい物語

  • 2007/11/23
  • イベント
  • シネマ
やわらかい手

難病の孫を助けたい。高額の治療費を工面するため、平凡な中年主婦が選んだ職とは? 出演は波乱万丈の実人生で知られる60年代のポップ・アイコン、マリアンヌ・フェイスフル、旧ユーゴスラビアを代表する俳優ミキ・マノイロヴィッチ、監督はCM界で知られるサム・ガルバルスキ、原案・脚本はブリュッセルを拠点に小説家としても活躍しているフィリップ・ブラスバン。あからさまな風俗サービスを背景に、普遍的な愛や献身、人が偽りのない本物の人生を見つけるまでを描く、個性的な悲喜劇である。

ロンドン郊外に暮らす、平凡な中年主婦のマギー。難しい手術を受ける孫のために6000ポンドが必要になり、切羽詰まったマギーは歓楽街の高収入の募集に申し込む。それは思ってもいない風俗サービスを施す仕事だったが、店のオーナーはマギーの手がその“仕事”に向いていることを見抜き、雇うことに。マギーは孫のため、身を挺して仕方なく始めたものの、意外な才能を開花させて歓楽街一の売れっ子になっていく。

やわらかい手

夫に先立たれ、息子夫婦や孫のために自分を犠牲にすることを厭わない純粋な中年女性。彼女が想像を絶する、これまでの世界とはかけ離れた“サービス業”に嫌々ながらも従事することにより、真に大切なことに目覚め、本当に必要なことを選択していく過程が、皮肉でユーモラスで、そしてあたたかい。この風俗サービスは“日本式”だそうだが、あまりにも即物的すぎて笑える。マギーが仕事熱心すぎて肘を痛めるエピソードも可笑しい。

マギーを演じたフェイスフルは、60年代にローリング・ストーンズのミック・ジャガーの恋人として知られ、シンガーとして女優としてブレイク。そして18歳で出産し、ドラッグ中毒のためショービズ界から姿を消し、再びシンガーとして女優として返り咲いた人物。ハンガリー貴族の血をひきながらも波乱に満ちた奔放な生き様を貫き、ソフィア・コッポラをはじめ監督たちから熱いラブコールを受けることもしばしばとのこと。どん底から確かな何かを掴んで立ち上がるマギーを、自然な説得力をもって演じている。フェイスフルは語る。「本当に重要なことは、あなたがあなた自身をどう考えるか、ということなのです」

やわらかい手

2007年のベルリン国際映画祭でも高く評価され、長編2作目となるガルバルスキ監督の才能が認められた本作。露骨な風俗のエピソードが物語の中心としてあるため、資金調達にとても苦労し、時間をかけてようやく撮影にこぎつけたとのこと。小品でありながら製作には、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツ、ルクセンブルグのEU5ヵ国が参加しているというから面白い。母と息子、祖母と孫、義母と嫁との関係、あたりさわりのない近所の友達との馴れ合い、歓楽街で一般人が仕事をすること、そして心から通じ合い、恋に落ちるということ。インパクトある内容で惹きつけ、普遍的なテーマをさりげなく伝えるあたたかな作品である。

作品データ

やわらかい手
公開 2007年12月8日公開
Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2006年 ベルギー、ドイツ、ルクセンブルグ、フランス、イギリス映画
上映時間 1:43
配給 クレストインターナショナル
監督 サム・ガルバルスキ
原案・脚本 フィリップ・ブラスバン
出演 マリアンヌ・フェイスフル
ミキ・マノイロヴィッチ
ヴィン・ビショップ
シボーン・ヒューレット
ドルカ・グリルシュ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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