母べえ 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
母べえ

 
太平洋戦争直前、昭和15年の東京。
不穏な情勢下でも人々は健気に生きていた――
家族や隣人、そして愛する人への思慕を描く感動作。



  読売女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞優秀賞を受賞した野上照代氏の自伝的小説を、山田洋次監督が映画化。太平洋戦争の直前、厳しい時代を生き抜いたひとつの家族を描く。出演は吉永小百合、坂東三津五郎、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来。不穏な情勢下、政治や思想の自由が制限されながらも、人々が助け合って暮らしていた頃のあたたかな交流を伝える人間ドラマである。


  昭和15年の東京。文学者の父に主婦の母、しっかり者の長女と愛らしい次女、野上家は裕福でなくとも幸せに暮らしていた。が、反戦を旨とする父が、治安維持法違反で特別高等警察に検挙され、突然連れ去られてしまう。悲しみにくれる母子のもと、父の教え子であった山崎が訪れ、父が釈放されるまで力になってくれることに。生活を支えるために母は小学校の代用教員として働き始め、父の妹である久子が手伝いにくるようになり、父の帰りを待つ母子の暮らしが始まる。
浅野忠信、檀れい
 確かな絆をもつ家族や親しい隣人との交流と、第二次世界大戦中の暗雲に覆われた世情。その明暗の微妙なコントラストから、当時の人々の活気や不屈の生命力がよく伝わってくる。“時代の重苦しさを出し、家族のささやかな幸福感も出す”という製作側の狙いが、スクリーンにしっかりと映し出されている。現実にあったつらい出来事がベースにありながら重苦しいだけに終わらず、やさしい気持ちと静かな感動をよび起こす作品だ。
 母べえこと野上佳代を演じた吉永小百合は、照べえ役の佐藤未来と江戸東京博物館へ遊びに行くなど撮影以外の時間でも交流をもち、母子としてのつながりを深めていったとのこと。子役時代から演技派で知られる初べえ役の志田未来も含め、母子3人のやりとりからは自然なあたたかさが感じられて心が和む。母子を支える山崎を演じた浅野は心に想いを秘める朴訥とした文学青年を、父の妹・久子を演じた檀れいが料理は苦手だけど快活な久子を好演。投獄されても戦争反対の意志を貫く父を演じた坂東は、“キリストのごとく”やつれていく一本気な文学者を確かな演技力で表現している。
笑福亭鶴瓶、佐藤未来、志田未来、浅野忠信、檀れい、吉永小百合
 '40〜'42年(昭和15〜17年)の東京を舞台にした本作。原作者の野上氏から提供された写真やイメージ画から方向性を定めてゆき、当時の記録映像や写真を調べ上げ、町並みや家、服装や小物類を作り込んでいったとのこと。約600坪の土地を使用した14棟の建物と路地などのオープンセットは、埼玉県川口市にあるSKIPシティの一角に製作。土の道に木造の家々など、当時の趣がすみずみにまで行き渡り、物語に大きな説得力を与えている。
 家族の絆や人情、愛する人への思慕を描き、戦争が人々にもたらすやるせなさを描く物語。本作について原作者の野上氏は、「山田さんは、大声では叫ばないが、人間これでいいのか、と静かに怒っているような気がする」と語り、山田洋次監督は「あの戦争で悲しい思いをした人びと、さらには今もなお戦渦に苦しむ人たちすべてに想いを馳せながらこの作品を作り上げたい、と念じます」と添える。静かな余韻が心に広がる、しみじみとした感動作である。
『母べえ』2007年 日本映画
データ
2008年1月更新

志田未来、吉永小百合、佐藤未来、坂東三津五郎

2008年1月26日公開
丸の内ピカデリー2ほか
全国ロードショー

■2007年 日本映画
■上映時間 2:12
■松竹配給
■監督・脚本/山田洋次
■脚本/平松恵美子
■原作/野上照代
■出演/吉永小百合
坂東三津五郎
浅野忠信
檀れい
志田未来
佐藤未来
笹野高史
中村梅之助
戸田恵子
大滝秀治
笑福亭鶴瓶



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。