グーグーだって猫である

大島弓子のエッセイ漫画を犬童一心監督が映画化。
猫と友達と彼と、つながってゆく心の交流を描く
大人の女性たちに訴えかける温かな物語

  • 2008/08/22
  • イベント
  • シネマ
グーグーだって猫である©2008 『グーグーだって猫である』フィルム・コミッティ

「通じ合う瞬間、解り合い、分かち合うとき。第12回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した、大島弓子による自伝的エッセイ漫画を映画化。出演は小泉今日子、上野樹里、加瀬亮、そしてもと兄弟デュオ平川地一丁目の林直次郎とお笑い界から森三中。脚本・監督は『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』を手がけ、自身が大島弓子のファンである犬童一心。都市で自立して生きる女性の胸に訴えかける、切なくも温かく、ささやかな強さを秘めた物語である。

人気漫画家の麻子さんは愛猫のサバを亡くし、悲しみで漫画を描けなくなってしまった。アシスタントをしているナオミ、加奈子と咲江と美智子の三人組が心配して見守る中、麻子さんはペットショップで出会った子猫、グーグーと暮らし始める。それからは新作のアイディアがわき、飄々とした青年の青自にときめき、ナオミたちとともに吉祥寺の街で幸せに日々を過ごしていく。しかしある日、麻子さんは不意に倒れてしまう。

上野樹里

いわゆる動物の愛らしさやお涙頂戴の定番的物語をなぞるような、通り一遍の作品ではない本作。人気漫画家である未婚の40代女性が、アシスタントや気になる男性とほほえましい生活を送る中で、思いがけない転機を迎える。そんな時に近づいたり離れたり、距離やバランスをとりながら支えてくれる周囲の人々、そして何より身近で肌や心を温めてくれる愛猫グーグー。血のつながった家族ではなく、親愛の情で結ばれた絆の深さと優しさがとてもよく伝わってくる。個人的には、ナオミが麻子さんに告げられて動揺する場面、麻子さんとサバの再会、この2つのシーンで思いがけず涙がドバッとあふれた。言葉ではなく心で強く“通じ合う”瞬間が、とてもくっきりと静かに描かれているのだ。

淡い恋心を夢見るように大切に味わう40代の麻子さん、将来の夢を描きながら彼氏と生身の恋をしている20代のナオミ。2人の性質であるファンタジーとリアルのコントラストが小気味よく、全篇を通じて淡々としたトーンでありながらも飽きさせない。麻子さんを演じた小泉今日子は実際に猫を飼っていて、子供の頃から大島作品のファンとのこと。意外なほど作品に自然になじんでいる。麻子先生を尊敬するアシスタントのナオミ役は上野樹里が好演。確かな演技力で作品にメリハリを与えている。原作にはないキャラクター、研修医の青自を演じているのは若手の演技派、加瀬亮。率直でいて無理をしない、少年のような好青年を“らしく”演じている。

森三中、上野樹里、小泉今日子、加瀬 亮

昔から大島弓子のファンという犬童監督。自主製作である’82年の『赤すいか黄すいか』を含めると、’00年の『金髪の草原』、そして本作と、自らの監督・脚本で3本の大島作品を映画化。その魅力についてこう語っている。「大島さんの漫画が面白いのは、現実と現実でないことの境目が曖昧になる感じ。現実と非現実、それはどっちもリアルなんだ、と思って描いているところ。主人公が悲劇的な状況に陥り、切羽詰って変な行動をとりだすと、読んでいる人は笑っちゃう。その描き方、視点があまり日本人にない描写の仕方だと思うんです」

グーグー

本作を製作するにあたり、犬童監督もプロデューサーも数年前から猫を飼い始めたとのこと。猫に詳しくない筆者にも、猫の習慣や愛らしい仕草の数々がひしひしと伝わってくる仕上がりだ。嘘や偽物じゃない、日常的な愛情の積み重ね。明日どうなるかは誰にもわからないけれど、今の幸せは本当で、それが少しずつ積み上がっていけばいい。そんな等身大の温かみが胸にすとんと落ちてくる、とても良質な作品である。

作品データ

グーグーだって猫である
公開 2008年9月6日公開
シネマライズほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2008年 日本
上映時間 1:56
配給 アスミック・エース
監督・脚本 犬童一心
原作 大島弓子
音楽 細野晴臣
出演 小泉今日子
上野樹里
加瀬 亮
森三中
林直次郎
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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