地球が静止する日

’51年の本格SF映画をキアヌ主演でリメイク、
洗練された世界観で現代社会への警告を示す
銀河系レベルのSFアクション大作

  • 2008/12/19
  • イベント
  • シネマ
地球が静止する日©2008 TWENTIETH CENTURY FOX

巨匠ロバート・ワイズ監督による’51年の本格SF映画『地球の静止する日』を現代風にリメイク。主演はハリウッドの人気俳優キアヌ・リーブス、監督は実話ベースのホラー映画『エミリー・ローズ』で監督・脚本を手がけたスコット・デリクソン。巨大な謎の球体とその中から現れた生命体の目的とは? 最新技術を駆使した迫力の映像で引きつける娯楽作であり、21世紀に生きる私たちに環境問題へのメッセージをさらりと投げかける話題作でもある。子供から大人まで、幅広い層が楽しめるSFアクション大作である。

ある夜、ワシントンD.C.に巨大な謎の球体が。各国から集められた科学者たちが見守る中、球体の中から未確認の生命体が現れ、動揺した軍が発砲。負傷した生命体を治療し、意識を回復した後に話を聞くと、彼はクラトゥと名乗り、別の文明からやってきたと語る。アメリカ国防長官が投薬して尋問にかけようとした時、生物学者のヘレン・ベンソン博士は彼に逃げるように耳打ちする。

キアヌ・リーブス

「人類が滅亡すれば、地球は生き残れる」。あまりにも本当のことで返す言葉もないクラトゥの冷静な一言。“彼ら”の真意を知ったヘレンは、人類に最後のチャンスを与えてくれるように懇願する……。’51年のオリジナルは冷戦と核の脅威による時代を暗喩し、平和の使者である異星人の助言によって人間は宇宙侵略を踏みとどまる、という内容だったが、本作は大きく異なる。高度な文明をもつ異星人がひとつの種である“人類”よりも多様な生物をはぐくむ星・地球を尊重する、という内容には説得力があり、危機的な世相へのメッセージを示すという根本的な意味でオリジナルの流れを汲んでいる。クラトゥの変貌や球体の役割、一斉に始まる最終攻撃のありさまなどSFとして洗練された世界観があり、リメイク独自の見せ方がよく確立されている。

本作で異星人クラトゥを演じたのは、人間離れした超人的な役がハマるリーブス。学生時代はアイスホッケーで活躍するなど運動神経の良さはかなりのもので、美しい顔と無駄のない動きによる超然とした佇まいは彼ならでは。その恵まれた資質はやはりハリウッド映画によく映える。年齢による衰えが容色に多少表れてきたものの、生来もつ華やかなオーラや高い身体能力を存分に生かし、こうした役の俳優として末永く活躍することだろう。義理の息子ジェイコブと人類を守ろうとするヘレン役はジェニファー・コネリーが、素朴な視線で観客の視点となる少年ジェイコブはウィル・スミスの実子ジェイデン・スミスが好演している。

地球が静止する日

印象的なのは、クラトゥが中国の老人と話すシーン。人類を滅亡に値するダメな種としながらも人であることをよしとする、その矛盾がとてもいい。クラトゥの心に、池に投げた小石の波紋のように何かが広がっていくさまがじわりと伝わってくる。後半になるにつれクラトゥの反応に、某缶コーヒーのCMでトミー・リー・ジョーンズ扮する宇宙人ジョーンズをどことなく思い出したりもして。

地球が静止する日

さて、劇中では米国大統領が国防長官に下す指令がいかにもブッシュ風で、次期大統領のオバマ氏ならもっと知的な対応をとるのでは、という向きも。本作の公開を全米でも日本でも12月、’09年1月20日に迎えるブッシュ大統領の任期満了前であることはちょっと納得だ。この映画は世界公開どころか、宇宙公開という映画史上初の大規模な試みを行っているとのこと。110分の映画を秒速18万6000マイルで宇宙に向けて通信し、三重連星アルファケンタウリへ送信。もしこの星に生命体が存在していれば、4年後の2012年にこの映画を楽しんでもらえるのだ。夢のあるPRイベントに始まり、彼氏彼女、ファミリーなど地球の老若男女から異星の皆さんまで。銀河系レベルで万人に贈る、SF娯楽大作である。

作品データ

地球が静止する日
公開 2008年12月19日公開
日劇1ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2008年 アメリカ
上映時間 1:44
配給 20世紀フォックス映画
監督 スコット・デリクソング
脚本 デヴィッド・スカルパ(エドマンド・H・ノースの脚本に基づく)
出演 キアヌ・リーブス
ジェニファー・コネリー
ジェイデン・スミス
キャシー・ベイツ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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