少年メリケンサック 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
少年メリケンサック

     ©2009「少年メリケンサック」製作委員会
宮藤官九郎がオリジナル脚本を
自ら監督パンクバンドの騒動をロードムービー風に描く
反骨をビートにのせて笑いと勢いで響かせる



パンクを愛して25年。脚本家、監督、俳優として活躍する宮藤官九郎がパンクをテーマにオリジナルの脚本で映画を発表。出演は宮アあおい、佐藤浩市、木村祐一、田口トモロヲ、三宅弘城。パンクバンド“少年メリケンサック”をめぐる騒動をロードムービー風に描く。クドカンテイスト炸裂、大いに笑えて情けなくも切ない、しっかり反骨なドラマである。


レコード会社に勤める契約切れ寸前のOLかんなは、動画サイトでイケメンパンクバンドを発見。いざスカウトしに行くと、そこには酒びたりの50歳すぎのオッサンが…。映像が25年前の解散ライヴだったと知り、スカウトを取りやめようとした時、上司からライヴツアーがすでに決まったという連絡が入る。スカウトできないとクビ確定のかんなはバラバラだったバンドのメンバーを呼び集め、イチかバチかの賭けにでる。


  いつもながら、クドカン作品には“フック”がいっぱい。色も形も大きさもバラバラにこれでもかと仕込まれ、観ているとそのフックに思いがけずひっかかっては笑ったり不意を突かれてキョトンとしたり、やりすぎ感にアテられて引いたり、ちょっと涙目になったりさせられる。本作でも独特の台詞や展開や演出は俳優たちの演技といい感じに相まって、手品やびっくり箱のような人肌の温もりのある面白さや味わいがよく伝わってくる。

木村祐一、田口トモロヲ 、佐藤浩市、宮崎あおい
 キャストも期待通り、意外性たっぷりのメンバーで俳優たちの新鮮な表情が楽しい。かんな役の宮崎あおいは、’08年の大河ドラマ『篤姫』出演の合間を縫って撮影に参加。行き当たりばったりで泣いて叫んでケンカして、「ここまでハジける役は初めて」と語り、宮藤監督とともに超乗り気で役作りを楽しんでいたとのこと。また自称“高円寺のシド・ビシャス”こと少年メリケンサックのベース、アキオ役は佐藤浩市が好演。佐藤浩市が髪を逆立てて殴るわ蹴るわシャウトするわ、それだけでもまず面白い。ギター担当でアキオと仲の悪い弟のハルオをキム兄がひょうひょうと演じ、事故の後遺症で言語障害のあるヴォーカルのジミー役は、もともとパンクバンドばちかぶりでヴォーカルだった田口トモロヲがシュールなパフォーマンスを披露。ドラムのヤングは宮藤監督とともに実際に活動しているパンクバンド、グループ魂のドラムにして劇団ナイロン100℃所属の俳優、三宅弘城がマッチョで人のいいパンクスを地でいっている。レコード会社社長にユースケ・サンタマリア、かんなの彼氏マサルに勝地涼と脇も充実。またザ・スターリンの遠藤ミチロウ、ザ・スタークラブの日影 晃、アナーキーの仲野 茂ら本物のパンクスがちょい役で登場するというファンにはたまらない仕込みも。25年前のジミー役には銀杏BOYZの峯田和伸、少年メリケンサックのもとマネージャーは電気グルーヴのピエール瀧など、ミュージシャンたちの出演も多数。ちょっとの出演でインパクト大のカリスマミュージシャンTERYAは田辺誠一がユーモラスに表現。デヴィッド・ボウイやGacktを足して割ったようなキャラクターで、独特の間合いがかなり可笑しい。なかでもTERYAのヘンテコなテクノ系トランスの曲「アンドロメダおまえ」のミュージックビデオは最高。映画では一部しか流れないものの実は1曲分すべて収録してあるそうなので、DVD化した際の特典映像に大いに期待したい。
ユースケ・サンタマリア 、宮崎あおい
 クドカンといえば、脚本家、監督、俳優として映画や舞台やTVで活躍し、さらにはバンドでギタリスト、ラジオのパーソナリティ、バラエティ番組の構成作家やエッセイストと八面六臂の活躍をしているため、映画の長編監督もすでに何度かしてきたかのような錯覚があるかもしれないが、’05年の『真夜中の弥次さん喜多さん』が初監督作品で長編の監督としては今回が2作目。しかもオリジナル脚本を自ら監督するのは実は本作がお初とのこと。こってりクドカン一色の遊びっぷりと主張を堪能できる。パンクについて宮藤監督は語る。「“何もしたくないけど何かせずにはいられない”という切実な欲求だけが存在する。それが衝動であり、パンクなんだと思います。そしてそれは人間なら誰でも、パンクロックを聴かないアナタでも持っている感情だと思います」。そう。本作はパンクファンのためだけの映画ではなく、誰もがなんにも気負わずに楽しめるみんなのための映画。ダメダメでもたまにはカッコいいような、それはただの気のせいのような、人間臭い生身の可笑しさや切なさがなんとなくいい感じなのだ。最後のシメは本作を語る宮藤監督の名言で。「これは衝動の映画ではない、映画の衝動だ!」
『少年メリケンサック』 2008年 日本映画
データ
2009年2月更新

佐藤浩市 、宮崎あおい
2009年2月14日公開
丸の内TOEI1ほかにて
全国ロードショー

■2008年 日本映画
■上映時間2:05
■東映配給
■監督・脚本/宮藤官九郎
■出演/宮アあおい
佐藤浩市
木村祐一
田口トモロヲ
三宅弘城
ユースケ・サンタマリア
勝地涼
ピエール瀧
田辺誠一



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。