フロスト×ニクソン 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
フロスト×ニクソン

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1977年、米国TV史上最高の視聴者数を記録した
伝説のインタビュー番組の全貌を実話ベースで描く。
鬼気迫るせめぎ合いを客観的に捉えた人間ドラマ



  1977年、アメリカのテレビ番組史上最高の視聴者数4500万人を釘付けにしたという、伝説のテレビ番組とは? イギリス人の司会者デビッド・フロストとアメリカ元大統領の故リチャード・ニクソンのインタビュー番組の全貌に迫る。実話をベースにイギリスで戯曲化され、映画化は不可能とされていた物語が製作陣の情熱と技術によって新たに完成。主演は舞台版と同様に、舞台俳優として高く評価されているフランク・ランジェラとイギリスの実力派俳優マイケル・シーン。原作・脚本・製作総指揮はピーター・モーガン、監督・製作はロン・ハワード。フロストやニクソンのセレブとしてはなやかな一面もとらえつつ、息が詰まるほどの完全対決を緊張感たっぷりに描く。戯曲としての魅力を引き継ぎながら、美しいロケーションや当時さながらの美術セットなど映画の醍醐味を生かした、人間味あふれるクールなドラマである。


  ’72年に起きたウォーターゲート事件によって’74年に大統領を辞任し、謝罪なき会見を最後にメディアの前から姿を消して沈黙を守ってきたリチャード・ニクソン。’77年、政界復帰を目論むニクソンは、数あるインタビューの申込みの中から英、豪で活躍するテレビ司会者男デビッド・フロストの申し出を60万ドルの法外なギャランティと詳細の条件付きで受諾。4日間にわたるインタビューの収録に向けて、フロストとニクソン両陣営の徹底的な準備がスタートする。
ケビン・ベーコン、フランク・ランジェラ
 ウォーターゲート事件とは、共和党のニクソン大統領の指示により、野党である民主党がオフィスをかまえるウォーターゲートビルに5人の男たちを不法侵入させ、盗聴器を設置しようとした事件。大統領サイドはFBIの捜査を妨害し、提出を求められたテープ資料のうち18:30を消去して証拠を隠滅。その後、ニクソンは自ら大統領を辞職したために弾劾されず、後任のジェラルド・R・フォード大統領が事件調査の終了後にニクソンを特別恩赦にしたことから有罪にもならなかった。つまり罪を認めず、国民に対する謝罪もナシ。本作はそれから3年、ニクソン元大統領が犯した不正行為への怒りをアメリカ国民が忘れかけていた頃の話である。ニクソンから罪を認める謝罪の言葉を引き出し、コメディアン出身のテレビ司会者という軽んじられる立場から本格ジャーナリストとなり、アメリカ3大ネットワークへの進出を狙うフロストと、インタビューを通じて政治家としての功績と手腕をアピールし、政界への華々しい復帰を目指すニクソン。2人とも野心マンマン。強力なブレーンとタッグを組んで作戦を練り、両陣営が対決に臨む姿が描かれる。


 実際にインタビューに関わった人々から聞き出したエピソードをたっぷり盛り込んだという本作。周囲の人々の思惑も赤裸々で、いつでも一触即発という緊張感がヒシヒシと伝わってくる。あのかなりグッとくる“電話”のシーンや、個人的に「英国人らしいシニカルなユーモアが粋(イキ)!」と感じた最後のテラスのエピソードをはじめ、フィクションが巧く盛り込まれているとのこと。キモの部分が実はフィクションだったということから本国アメリカで評価が割れているようだが、あくまでも実話ベースの“物語”として劇作家モーガンとハワード監督が演出の妙を効かせているからこそ、ドラマとして見応えのある仕上がりとなっているのだろう。
マイケル・シーン
 役者たちが充実の演技を披露していることは言わずもがな。フロスト役のシーンは野望に囚われ、最後の最後でジャーナリスト魂に目覚める心境を丁寧に表現。制作中にフロスト本人と何度も会ったというシーンは、とても親切に応援してもらったことに感謝しているそう。ランジェラはニクソンを威風堂々と演じ、舞台版で3度目のトニー賞を受賞、本作ではアカデミー主演男優賞にノミネート。ニクソンの雰囲気をよくとらえつつ、栄光と挫折を味わった人間の複雑な内面を絶妙に伝えている。また周囲を取り巻く面々として、ケビン・ベーコン、オリバー・プラット、サム・ロックウェルらの存在も大きい。


  任期中に辞任したアメリカ史上唯一の大統領という不名誉な経歴を持する元大統領から謝罪を引き出す、という誰も成し得なかった大役を買って出た英国人インタビュアーの逸話。ニクソンは“元弁護士のアメリカ大統領”という、奇しくもオバマ現大統領と同じ経歴だったりもする。晩年には任期中に成し遂げたベトナム戦争の終結やアメリカ大統領初の中華人民共和国訪問など、外交の功績がメディアや人々に見直されたというニクソン。脳卒中を起こして’94年に81歳で他界した彼は、通常は大統領経験者に行われる国葬ではなく、一般の市民として出身地カリフォルニアに埋葬されたという。そしてこの成功を機に世界的に認められ、’93年にはイギリス王室よりサーの称号を授与されたフロスト。栄光と挫折の裏には、強烈なドラマがある。人々の緊迫感や本音がググッと迫りくる、シビアなトーンの人間ドラマである。
『フロスト×ニクソン』 2008年 アメリカ映画
データ
2009年3月更新

フランク・ランジェラ
2009年3月28日公開
TOHOシネマズ シャンテほかにて
全国ロードショー

■2008年 アメリカ映画
■上映時間2:02
■東宝東和配給
■監督・製作/ロン・ハワード
■原作・脚本・製作総指揮/
ピーター・モーガン
■出演/フランク・ランジェラ
マイケル・シーン
ケビン・ベーコン
オリバー・プラット
サム・ロックウェル
レベッカ・ホール
トビー・ジョーンズ
マシュー・マクファディン



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。