消されたヘッドライン

政治家のスキャンダルがある陰謀の糸口に。
ベテラン新聞記者が巨大権力に立ち向かう
ハードボイルドな社会派サスペンス

  • 2009/05/15
  • イベント
  • シネマ
消されたヘッドライン©2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

イギリスで大ヒットした’03年のBBC のTVドラマ『ステート・オブ・プレイ〜陰謀の構図〜』を映画化。監督はアメリカとイギリス、双方のアカデミー賞で受賞歴のある実力派ケヴィン・マクドナルド。出演はオスカー俳優のラッセル・クロウ、監督や脚本も手がけるベン・アフレック、みずみずしい存在感の若手レイチェル・マクアダムス、ベテランのオスカー女優ヘレン・ミレン。新聞記者、政治家、国家、民間企業、そしてアメリカの影に沈む深い闇。WEBの台頭で新聞の発行部数が減少しているリアルな情勢を背景に、混沌とした現代をサバイバルするベテラン記者の視点で描く社会派サスペンスである。

ある朝、駅のホームで25歳の女性ソニア・ベーカーが転落死する。そして理想家で知られる清廉な政治家スティーヴン・コリンズのスタッフだったソニアが彼の愛人でもあったことが露見。コリンズの旧友であり、ワシントン・グローブ紙のベテラン記者であるカル・マカフリーがその醜聞を苦々しく思っていると、WEB担当の若手女性記者デラがコリンズのスキャンダルの真相を探りにカルのもとへ。カルがデラを一蹴し反目する中、カルが追う殺人事件の被害者とソニアの間に接点が発覚。辣腕の女編集長キャメロンのもと、カルとデラは仕方なく協力し合うことに。

ヘレン・ミレン、レイチェル・マクアダムス、ラッセル・クロウ

さまざまな要素が化学反応を起こし、物語が鋭くスピーディに二転三転し、観客をゾクゾクさせる仕上がり。2つの殺人事件のつながりとは? そこから徐々に炙り出されてゆく強大な利権をめぐる陰謀とは? 映画では、原作の設定であるイギリスのヘラルド紙からアメリカのワシントン・グローブ紙へと舞台を移し、登場人物1人1人の心理を絶妙に表現。サスペンスのためのドラマではなく、日々移り変わる社会情勢や人情が複雑に影響し合う、その動機のリアリティにグッとくる。

古参記者のカル役はクロウが期待通りに熱演。コネを駆使して手段を選ばず、強引に取材していく昔ながらのジャーナリズムを体現。自分を記者として軽んじたカルに反発しながらもコンビを組むことで大いに学び、成長していく若手記者デラはマクアダムスが好演。理想家肌の政治家コリンズはアフレックがシリアスに、新しい経営陣のもと発行部数を伸ばすべく躍起になっている女編集長キャメロンをミレンがパワフルに演じている。また記者会見のシーンでは、映画『大統領の陰謀』の基となる本を執筆したワシントン・ポストの伝説的な記者ボブ・ウッドワードをはじめ、アメリカで活躍する本物の有名ジャーナリストたちが記者役で参加しているという点も興味深い。

ラッセル・クロウ、レイチェル・マクアダムス

原作を手がけたのは、イギリスのヒットメーカーのテレビ脚本家にしてディレクター、ポール・アボット。今回はトニー・ギルロイら3人の脚本家たちが才腕を揮い、6時間のBBCテレビシリーズの魅力をしっかりと継ぎながら、見応えのある2時間の劇場用映画に仕上げている。スコットランド出身のマクドナルド監督は、ドキュメンタリー作家として知られる人物。’99年のドキュメンタリー『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』で第72回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、’06年の『ラストキング・オブ・スコットランド』では主演のフォレスト・ウィテカーがアカデミー賞主演男優賞を獲得。本作でも過剰な演出はなく、シビアな情勢の中、意思や衝動によって突き動かされていく人々の姿をリアルに描写。マクドナルド監督の確かな技量が感じられる。

ラッセル・クロウ

新聞とWEB、古参記者と新人記者、刑事と記者、政治家と記者、政治家と醜聞、経営陣と編集部、政治とメディア、調査委員会と民間企業、友情と仕事、夫と妻、妻と愛人、そして裏づけと〆切……さまざまな対立が描かれている本作。同じトニー・ギルロイ脚本作品でも、派手なキャスティングの割にドラマ性もセンスも冴えない、サスペンスにもラブコメにもなりきれない、現在日本公開中の『デュプリシティ/スパイは、スパイに嘘をつく』とは全く異なる本格スリラー(こちらは原作のある共同脚本作品のため違っていて当然だが)。ストイックなサスペンス好きにも間違いなくおすすめの一級品である。

作品データ

消されたヘッドライン
公開 2009年5月22日公開
TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2008年 アメリカ
上映時間 2:07
配給 東宝東和
監督 ケヴィン・マクドナルド
脚本 マシュー・マイケル・カーナハン
トニー・ギルロイ
ビリー・レイ
原作 ポール・アボット
出演 ラッセル・クロウ
ベン・アフレック
レイチェル・マクアダムス
ヘレン・ミレン
ロビン・ライト・ペン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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