イタリアの世界遺産の数々を背景に
辣腕の外交官・黒田が少女誘拐事件を追う。
大人のためのシリアスなミステリー大作
出演は織田裕二、天海祐希、戸田恵梨香、佐藤浩市、ゲストに福山雅治と主役級が揃いぶみ。フジテレビ50周年記念企画として、監督は’08年の映画『容疑者Xの献身』を手がけた西谷 弘、プロデュースにはヒットメーカーの亀山千広と大多 亮が名を連ね、ストーリーはミステリーの名手、真保裕一が企画段階から参加して書き下ろしている作品。全篇イタリアロケを敢行し、邦画としては破格の制作費とスケールで放つ、大人のためのシリアスなミステリー大作である。
クリスマスの目前、G8のイタリア開催も控え、イルミネーションがきらめくローマ。イタリアの日本大使館に辣腕の外交官・黒田康作が赴任してきた頃、観光でローマを訪れていた日本人の少女の誘拐事件が起こる。黒田はローマ警察と協力し、少女の母・矢上紗江子とともに犯人との取引に応じることに。捜査が混迷する中、黒田は独自に調査を開始。が、外交官には捜査権限がないため、イタリア警察から内務省を通じて越権行為とのクレームが入り、黒田は次第に孤立してゆく。
犯人の目的は身代金か、G8を狙うテロの一端か。ちりばめられたピースがじわじわと繋がって真相が明かされてゆくサスペンスであり、人物の心理がしっかりと描写されている人間ドラマであり、男女問わず幅広い客層の共感を誘う物語。スリルありホロリとさせる場面あり、予想以上に魅力的な仕上がりだ。
注目は、メインの織田裕二と天海祐希がこれまでとは異なるイメージの役柄で登場しているところ。黒田はストイックで判断力に優れ、目的のためなら手段を選ばず誤解も恐れず正当なスジを寡黙に通す、という古典的な男らしさをもつ人物。台詞の1/3ほどがイタリア語というのもなかなか。織田は「キャラクターに関しては、手取り足取り監督に1からつけていただいた」と語り、抑制を効かせた演技で新境地を披露している。天海は矢上紗江子役で、愛娘の誘拐事件に衝撃を受けて情緒不安になりながらも気丈にふるまう母親の健気さを丁寧に表現。紗江子のよき友人でロンドン在住の商社マン藤井を佐藤浩市が、黒田と長い付き合いのフリージャーナリスト佐伯を福山雅治が、日本大使館の研修生・安達役を戸田恵梨香が好演。ロケの合間には佐藤、天海、織田、福山というメンバーで食事をしたこともあったそうで、さぞかし画的にイケメンオーラを放つまぶしい集いだったに違いない(元宝塚の男役で凛々しい王子オーラをもつ天海も含めて)。
もうひとつの見どころは、舞台となっているイタリアの美しい自然や伝統的な建造物といった世界遺産の数々。わざとらしい“観光映画”ではなく、背景としてさりげなく映るように考慮されているところが好い。市街地の場面は、映画『天使と悪魔』でも大事な舞台となったサンタンジェロ城や、『ローマの休日』で有名なスペイン広場などを含む“ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂(ヴァチカン市国)”のエリアで撮影され、ラストにはイタリア南西部の地中海に面した高級リゾート地・アマルフィ海岸が映し出され、おとぎ話のような風景が心に残る。そしてナポリ近郊にあるガゼルタ宮殿では、日本映画初出演のイギリスを代表する歌姫サラ・ブライトマンが本人役でリサイタルのシーンに登場。本作の主題歌である’96年の世界的なヒット曲「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」を歌い上げ、そのエレガントな美声をたっぷりと堪能できる。
映画のためのオリジナルの書き下ろしである今回の物語。先に企画ありきでスタッフとじっくり話し合いながら完成させていったことからか、“脚本”の表記はナシ。“原作者”真保裕一は“正確には自分はあくまでも原作者のひとり”と謙虚に語っている。映画とは異なる点のある同名の小説版も出版されたそうで、映画とあわせて楽しむのもいいだろう。さて、製作サイドの目論見とおり本作はおそらく大ヒットして、続編決定は間違いない。ここまで製作費がかけられるかどうかは別として、ストーリーやキャスティングの妙で次回もクオリティの高い作品になるよう、いち視聴者として期待している。
公開 | 2009年7月18日公開 全国東宝系にて全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2009年 日本 |
上映時間 | 2:05 |
配給 | 東宝 |
監督 | 西谷弘 |
原作 | 真保裕一 |
製作 | 亀山千広 |
企画・プロデュース | 大多 亮 |
出演 | 織田裕二 天海祐希 戸田恵梨香 佐藤浩市 大塚寧々 伊藤淳史 小野寺昭 平田満 佐野史郎 サラ・ブライトマン 福山雅治 中井貴一 |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。