クララ・シューマン 愛の協奏曲

シューマンとブラームスが愛した女性クララ
音楽家、妻、母、女である人生の葛藤と充足とは。
名曲の調べにのせて綴る、史実に基づく人間ドラマ

  • 2009/07/03
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  • シネマ
クララ・シューマン 愛の協奏曲

ドイツが誇る19世紀の偉大な音楽家ロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームスの2人に愛された女性音楽家、クララ・シューマンの半生を描く作品。出演はドイツの演技派女優マルティナ・ゲデック、’07年の『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』などヨーロッパで活躍するパスカル・グレゴリー、美形の若手フランス人俳優マリック・ジディ。監督・脚本はヨハネス・ブラームスの叔父の子孫であり、女性の生き様を描くことに定評のあるドイツの女流監督ヘルマ・サンダース=ブラームス。ロベルト・シューマン作曲の《ピアノ協奏曲イ短調》のピアノ独奏に始まり、美しい調べにのせて綴る愛と葛藤の物語である。

19世紀半ごろ、天才作曲家ロベルト・シューマンの妻クララは、才能あふれるピアニストとしてヨーロッパ各地で演奏会をしながら、妻として子供7人の母として多忙に過ごしている。クララを崇拝する新進作曲家のヨハネス・ブラームスは、自分の作曲した楽譜をもってシューマンの家を訪問。シューマン夫妻はその確かな才能に驚き、居候として家に同居させることに。快活なブラームスは子供たちと仲良く遊び、躁鬱を病むロベルトの芸術的理解者となり、夫を支えるクララの励ましとなり、シューマン一家の拠りどころとなっていく。

マリック・ジディ、マルティナ・ゲデック

仕事と家庭を両立すること、家族の情愛、恋の情熱。男性優位社会の19世紀ヨーロッパの話とあれば、運命に翻弄される女性のメロドラマかと思いきや、自立する現代女性に訴えかける普遍的なテーマが描かれている。クララは一流の音楽家であり、繊細すぎる夫の妻であり、7人の子供たちの母親でもある。男性も顔負けの音楽家としての才能がありながら彼女はすべてを発揮できないまま、妻や母親として葛藤しながらも献身的に生きていく。夫を心から尊敬し子供を愛し、自ら納得して暮らしているつもりでも、自分の道を諦めきれないという相克は、今も昔も変わらない女性としてのジレンマだ。

シューマンやブラームスの名曲を満喫できるのは言わずもがな。中盤の見どころは、オーケストラの演奏によるシューマンの《交響曲第3番 変ロ短調「ライン」Op.97〜第1楽章、第2楽章》。個人的に一番好きなシーンは、ブラームスがピアノで《ハンガリー舞曲集〜第5番 嬰へ短調》を弾いて、子供たちがはしゃいで踊りまくる場面。オケの演奏でも知られる名曲をごくシンプルに“舞曲”として楽しんでいるところがなんとも微笑ましい。そしてラストにはブラームス作曲の《ピアノ協奏曲第1番ニ短調》をクララが情感深く演奏するシーンで、余韻を残す。

マルティナ・ゲデック、パスカル・グレゴリー

クララ役のゲデックは才能にあふれ、タフで情に厚い女性音楽家を力強く好演。ジディは14歳年上のクララを盲目的に慕う、才気みなぎる若き作曲家ヨハネスを魅力的に演じている。そしてロベルト役のグレゴリーは、人と関わることが苦手なことから精神的にどんどん追い詰められていく焦燥をリアルに表現。妻クララを慕うブラームスに嫉妬し、自分の理解者であるブラームスをとりあげないでほしいとクララに懇願し暴力をふるい……周囲を巻き込んで錯乱していく様が痛々しい。

マルティナ・ゲデック、マリック・ジディ、パスカル・グレゴリー

実は監督は、’77年に長女を出産したことを機に、それまで頑なに拒否してきたブラームス姓をようやく名乗るようになったとのこと。以前はそうして“血統”に頼らず、表現者として自力で歩む意思を固く表していた、ということなのだろうか。そして約10年という歳月をかけて内容を練り上げ、本作の撮影に臨んだのだそう。情愛や同志愛を含むロベルトとクララとヨハネスの共生するかのような濃密な絆、クララの8人目の子供に対する疑惑、後年のクララとヨハネスの関係。不世出の音楽家3人の生々しく人間臭い面を臆さずに映し出すことは、ヨハネスの血縁だからこそできたことなのかもしれない。今も昔も恋愛沙汰は当事者にしかわからない。まして150年前のことなど、誰にわかるはずもない。ただ史実からわかることはロベルトの死後、クララは誰とも結婚せず、ヨハネスは彼女を資金面で援助し、クララの死後1年後に病死した、ということぐらいだ。本作のラスト、都合がよすぎるとも詩的ともとれる描写に、あなたは何を思うだろうか。

作品データ

クララ・シューマン 愛の協奏曲
公開 2009年7月25日公開
Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2008年 ドイツ・フランス・ハンガリー合作
上映時間 1:49
配給 アルバトロス・フィルム
監督・脚本 ヘルマ・サンダース=ブラームス
出演 マルティナ・ゲデック
パスカル・グレゴリー
マリック・ジディ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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