マイレージ、マイライフ

“荷物を負わない”人生を満喫する男の前に
2人の女性が現れ、妹の結婚の知らせが届く。
軽妙な会話が冴える、ほろ苦いヒューマンドラマ

  • 2010/03/19
  • イベント
  • シネマ
マイレージ、マイライフ© 2009 DW STUDIOS L.L.C and COLD SPRING PICTURES.
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喫煙者の権利を守ろうとする広報マンを描いた2006年の映画『サンキュー・スモーキング』、想定外の妊娠をした16歳の少女を映す’07年の映画『ジュノ/JUNO』と、現代社会のテーマをとらえる32歳の若手監督ジェイソン・ライトマンの話題作。主演はプロデューサーや監督や脚本なども手がけて高く評価されているジョージ・クルーニー。女性にモテて仕事も一流。ただ、他者と関わる気がまったくないビジネスマンの心情を、シニカルな笑いを含むトーンで描く。現代人の個人的なスタンスに疑問を投げかける、少々ビターなヒューマンドラマである。

年間出張322日、各地の企業のリストラ対象者に解雇を通告する“リストラ宣告人”のライアン・ビンガム。航空会社のマイレージは夢の1000万マイル達成まであと少し、ライアンは“荷物を負わない”自分の人生に充足している。そんな折、ライアンは出張の合間に自分とよく似たタイプのキャリアウーマンのアレックスと“大人の関係”になり、仕事ではPCで業務の合理化を提案する新人社員ナタリーの教育係を請け負うことに。単独行動が常だったライアンは2人の女性と関わり、妹の結婚式という家族のイベントに参加したことを機に、他者や家族とのつながりについて心境が変化してゆく。

ジョージ・クルーニー

テンポのいい会話にクスッと笑い、辛口の本音をつきつけられ、現実的な展開に引き戻され。リストラする側とされる側、希薄な人間関係、結婚かシングルライフか、PC導入による業務の合理化、確立されたペースを守ろうとするベテランと最新の知識と技術で古い組織を変革しようとする新人との対立などなど、仕事をしている人間なら誰もが心当たりのあるキーワードの数々を描いている。

この映画の面白いところは会話の妙。ライアンとナタリー、マイペースなこだわりオヤジV.S.おカタい今どき女子のジェネレーションギャップや相容れない主義主張の言い合い、まくしたてる台詞などは、字幕を読む+スラングを拾い聞きするだけでも、冗談交じりや勢いあまって下品な言い回しに……というノリが伝わってきて可笑しい。そしてライアンとアレックスがマイレージ自慢をし合うシーンでは、「ステイタスにこだわる私たちは2人とも俗物だわ」と悪びれずにアレックスがサラリとひと言。これといった場面でなくとも、会話の間合いと率直な内容でほどよいメリハリがつけられ、ライトマン監督の演出センスが感じられる。

ライアン役はクルーニーが飄々と表現。ゆきずりの関係は得意でも、身近な人間や家族との親密な付き合いが苦手な男の心の動きをおさえた演技で表している。ライアンと対立する新入社員ナタリー役は若手のアン・ケンドリックが熱く、ライアンと気軽に付き合うアレックス役をヴェラ・ファーミガがクールに演じ、3人が顔を合わせる三者面談風のシーンも面白い。

ジョージ・クルーニー、ヴェラ・ファーミガ

原作は’05年に映画化された『サム・サッカー』の原作者としても知られるウォルター・カーンの同名の小説『Up in the Air(邦題:マイレージ・マイライフ)』。カーンが小説の着想を得たのはある時、実際に飛行機で隣に座った男性が年間300日以上出張して、アパートを引き払ってホテルを自宅と呼ぶライアンさながらのビジネスマンだったことがきっかけとのこと。また映画化にあたり、「本当のことを見せるべき」と考えたライトマン監督は、大勢の失業者がいるデトロイトとセントルイスで“自分のリストラ体験を語ってくれる人”を新聞で募集。映画では実際にリストラを経験した一般の人々が次々と映し出され、その時の心境を語るノンフィクションの映像が物語のエピソードとして差し込まれている。またエンドロールには、リストラを経験した50代の男性がその思いを綴った曲「アップ・イン・ジ・エア(小説と映画の原題と同じ)」を起用。社会の厳しい現状について、生の声を伝える工夫がなされている。

アナ・ケンドリック、ジョージ・クルーニー

飛行距離にして35万マイル、月に行ける距離を飛び回ってきたライアンの向かう先とは――? 本作はなかなかどうして、すっきりと胸がすく物語では決してない。「Life goes on. きっといいこともあるさ」とつぶやいてしまうようなラストに、監督が込めた思いとは。「私はこの映画を作り、心の中で熱く燃える思いがあることを確かめました。それは、『たとえ自分には誰も必要ないと思っていても、人生は絶対に仲間と一緒の方がいい』ということです」。現代のビジネスシーンに生きる男女の甘くない恋や人生を描く、ユーモラスでほろ苦い人間ドラマである。

作品データ

マイレージ、マイライフ
公開 2010年3月20日公開
TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 1:49
配給 パラマウント ピクチャーズ
監督・脚本・製作 ジェイソン・ライトマン
脚本 シェルダン・ターナー
原作 ウォルター・カーン
出演 ジョージ・クルーニー
ヴェラ・ファーミガ 
アナ・ケンドリック
ジェイソン・ベイトマン
エイミー・モートン
メラニー・リンスキー
ダニー・マクブライド
サム・エリオット
J.K.シモンズ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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