17歳の肖像

英国の辛口女性ジャーナリストの回想録を映画化
16歳で年上男性との恋に溺れた優等生の顛末を描く
現代女性にひとつの方向性を示すヒューマンドラマ

  • 2010/04/09
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17歳の肖像

ノミネートが5作品から10作品に増えた第82回アカデミー賞®では作品賞、主演女優賞、脚色賞3部門にノミネートされたほか、数々の映画賞で高く評価された話題のイギリス映画。監督は2000年の映画『幸せになるためのイタリア語講座』でベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞したデンマーク出身の女性監督ロネ・シェルフィグ、脚本は『アバウト・ア・ボーイ』のニック・ホーンビィ。出演は本作のみずみずしい演技が大きな注目を集めたイギリスの若手女優キャリー・マリガン、演技力に定評のあるピーター・サースガードやドミニク・クーパー、ベテランのアルフレッド・モリーナやエマ・トンプソンなど実力派が集結。舞台は“ビートルズ以前”、人々が戦後からつましい生活を続けていた’61〜’62年のイギリス、ロンドン郊外。16歳の少女が女性として人間として成長し、新たなステップを踏み出す姿を描く。実在する女性ジャーナリストの回顧録をもとに、16歳の目線を通じて展開する青春映画であり恋愛ドラマであり、ヒューマンドラマでもある。洗練された佳作である。

1961年、ロンドン郊外のトゥイッケナム。16歳のジェニーは堅実な両親に育てられ、オックスフォード大学を目指している優等生。ある日、ジェニーがチェロの練習の帰り道で雨に降られて困っていると、倍以上も歳の離れた人あたりのいい男性デイヴィッドに声をかけられ、高級車で家まで送ってもらう。ジェニーはデイヴィッドのウィットの効いた話術や紳士的なふるまいに惹かれ、彼と付き合うことに。これまでの質素な学生生活からジェニーの毎日は一変し、ナイトクラブに絵画のオークション、ドッグレースの見物など、デイヴィッドの贅沢なライフスタイルに夢中になってゆく。

キャリー・マリガン、ピーター・サースガード

パリに憧れてジュリエット・グレコのレコードをかけて、恋に恋していた女子高生のジェニー。初めての大人の恋人に夢中になり、享楽的な世界に溺れ、彼女を心配して支えようとしてくれる人たちに背を向ける。10代の反抗と暴走、恋の喜びと顛末、自分を助けられるのは自分であるということ。ここまで極端ではないにせよ、誰もが味わったことのあるはずの感情や状況が巧く描かれている。個人的にはジェニーとスタッブス先生、教師と生徒という立場よりも生身の女同士として向き合う2人のやりとりが響いた。

マリガンはジェニー役で無垢な少女から都会的なファッションを着こなす女性となり、紆余曲折を経て真の自分らしさを見出すまでの変化を丁寧に表現。当時22歳にはとても見えない透明感で16歳のジェニーを演じ、“21世紀のオードリー・ヘップバーン”とも。また物腰のやわらかな年上の恋人デイヴィッド役にサースガード、デイヴィッドの仕事仲間ダニー役にクーパー、ダニーの恋人ヘレン役にロザムンド・パイク、ジェニーの堅物の父役にモリーナ、ジェニーの通う学校の校長役にエマ・トンプソン、スタッブス先生役にオリヴィア・ウィリアムズと英米の演技派たちが出演。青春ラブストーリーの枠を超えて、人間ドラマとして楽しめる仕上がりとなっている。

ロザムンド・パイク、キャリー・マリガン

原作はイギリスで人気の辛口ジャーナリスト、リン・バーバーが雑誌に書き下ろした約10ページの自身の回想録。それを読んだ作家で脚本家、本作では製作総指揮もつとめているニック・ホーンビィが感銘を受け、映画化と脚本の執筆を決めたとのこと。ホーンビィは語る。「雑誌10ページくらいの回想録を、実現の保証のない映画のために脚色するのは大きな賭けでした。ただ、僕も郊外育ちで両親とも大学に行っていないから、僕にはジェニーの人生がわかる気がしたんだ。僕が気に入ったのは、“人生v.s.教育”とも言えるジレンマの豊かさ。僕がむかし教師をしていた頃は、そのことばかり考えていたんです。だから自分ならリンの作品をふくらませて脚本にすることができる、『映画として面白い作品にできる』という確信があったんですよ」。

キャリー・マリガン

「あの頃に戻っても、私は私を止めたりしない」。ジェニーは言葉も態度も潔く、間違いも失敗も受け入れて前進するスタンスがすがすがしい。時にはケンカ腰というくらい強烈な人物評をするという辛口女性ジャーナリストの礎はこうして築かれたのか、とも。バーバーは自らのエピソードについて、「この話は夫にしか話していなかったの。私がずっと抱えてきた秘密のようなものね」とコメントしている。原題は『AN EDUCATION(教育)』である本作。女性が陥りやすい失敗、そこから立ち上がって自分らしく生きていくための方向性をさりげなく示すかのような、女性のためのヒューマンドラマである。

作品データ

17歳の肖像
公開 2010年4月17日公開
TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2008年 イギリス
上映時間 1:40
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督 ロネ・シェルフィグ
脚本 ニック・ホーンビィ
原案 リン・バーバー
出演 キャリー・マリガン
ピーター・サースガード
アルフレッド・モリーナ
ロザムンド・パイク
エマ・トンプソン
オリヴィア・ウィリアムズ
ドミニク・クーパー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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