インセプション

クリストファー・ノーラン×レオナルド・ディカプリオ
洗練されたトリックアートのような斬新な映像で、
愛や信頼ゆえに追い詰められてゆく人々の心理を描く

  • 2010/07/23
  • イベント
  • シネマ
インセプション© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc.

徹底した秘密主義のもとで製作された注目作が日本上陸。2008年の映画『ダークナイト』にて、世界で10億ドルを超える興行収益をあげたクリストファー・ノーラン監督が打ち出す、新感覚のアクション・エンターテインメント。出演はスター俳優レオナルド・ディカプリオ、ハリウッドで認められている渡辺謙、『(500)日のサマー』で注目されたジョゼフ・ゴードン=レヴィット、『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』でアカデミー賞主演女優賞Rを受賞したマリオン・コティヤール、『JUNO/ジュノ』の演技が高く評価されたエレン・ペイジをはじめ、日米英仏の演技派俳優たちが参加。特殊技能によって他人の潜在意識に入り込み、頭の中からアイデアを盗み出すプロフェッショナルが暗躍する世界を描く。まるで洗練されたトリックアートのような斬新なヴィジュアルで展開する、一大サスペンス・アクションである。

人が眠りにつき夢を見ている間、もっとも無防備な状態となった潜在意識の奥深くに入り込み、貴重な情報を盗み出す“エクストラクト”という特殊技能をもつ男、ドム・コブ。世界最高の腕として闇社会で名が通っているコブは、新世代の産業スパイとして暗躍する反面、世界中から追われ、家族のもとへ帰ることもできない。そんな折、富豪で大物実業家のサイトーから、ある仕事を完遂できたら、これまでの罪を帳消しにして家族のもとへ戻れるように手配する、というオファーが。それは世界的な巨大企業の後継者に、ほぼ不可能とされるアイデアの植え付け“インセプション”をする、という難題だった――。

渡辺 謙

不可思議な映像トリックと迫りくる臨場感、極限状態に追い詰められた人間たちの心理描写が絡み合い、スリリングに展開してゆくサスペンス。一流の俳優たちの能力が引き出され、ノーラン監督の手腕がいかんなく発揮されている作品だ。

ロケは世界6ヵ国4大陸で行われ、東京に始まり、イギリスのロンドン、フランスのパリ、モロッコのタンジール、アメリカのロサンゼルス、カナダのカルガリーで敢行。コンピューターグラフィックをできるだけ最小限にとどめ、実際に撮影できる方法を考える、というノーラン監督の主義は本作でも貫かれている。大雪に見舞われたカルガリーの雪山では、その荒れた天候を逆手に取り、時には視界ゼロの猛吹雪の中で撮影したというからすごい。ノーラン監督は語る。「恐ろしく寒かったし、実質的に吹雪の中で撮影せざるを得ないことも多かったが、それによって、そのシーンには計算できない何かが加わったと思う。実際の条件のもとで撮影すると、やることすべてに真実味が加わるんだ」。

撮影では、雪山を専門に撮る監督や空撮監督などその道のプロの参加により、迫力のヴィジュアルを収録。爆発、崩落、暴動、水没、逃走、衝突、雪崩……ハッと息をのむありえないほどの映像のほとんどはCGや合成ではなく、優秀な視覚効果チームとともに徹底した仕掛けやセットなど万全な準備を整え、実際に撮影。その映像をベースにデジタルエフェクトやCGなどを加えることによって、非現実的なのにやけにリアル、というだまし絵のような奇妙で魅力的な映像を作り上げたのだそう。こうした撮影について、ノーラン監督はその真意を説明する。「僕たちは数多くの極端な状況を体験した。焼けつくような暑さ、豪雨、猛吹雪……。そういうものこそ、僕たちがこの映画を作るうえで求めたものなんだ。僕らはキャストを山のてっぺんに連れていき、水中に潜らせ、世界中を連れ回したが、彼らは難問にぶつかるたびに、見事にそれを克服してくれた。僕はいつも実在する場所に行って、その環境の中で撮影することがベストだと強く信じている。そうすることによって、演技に大きな説得力がもたらされるんだ。そしてそれは最終的に、行ったことのない場所に連れていかれる観客の心にも、何かを訴えかけるんじゃないかな」。また雪山に建物を作る時はコンクリートを一切使用せずにマツ科のトウヒの原木を使うなど、環境に悪い影響を絶対に与えないように配慮されたとのこと。このあたりは、ディカプリオが環境活動に熱心であることも関係しているのだろうか。

レオナルド・ディカプリオ

他人の潜在意識に入り込むプロ、コブ役はディカプリオが熱演。妻モルとの情愛、仲間たちとの関係やチームワーク、そしてすべては家族と平和に暮らすために、という悲願をくっきりと表現している。コブに難題をつきつける富豪のサイトー役は渡辺謙がダンディに、コブのビジネスパートナーで長年の相棒アーサー役はレヴィットがソツなくスマートに、建築を専攻する優秀な学生でありコブに夢の“設計士”として指名されるアリアドネ役はペイジが閃きの花を添え、夢で誰にでもなりすます“偽造師”イームス役はトム・ハーディーが軽妙に演じ、その筋の一流の人々がチームとして難題に挑む様子がスリリングに描かれている。またミステリアスな妻モル役はコティヤールが演じ、光と影の強いコントラストを観客に与え、巨大企業の後継者ロバート役にキリアン・マーフィー、脇にはトム・ベレンジャー、マイケル・ケイン、ピート・ポスルスウェイトとベテラン俳優の参加も。

インセプション

ノーラン監督のアイデアを、キャストもスタッフも一丸となって練り上げた力作。ディカプリオは語る。「僕たちキャストは、あのすべてを基本的に初めて体験したんだ。ちょうど観客が体験するようにね。僕たちはひとつのグループとして壮大な旅をし、それは常に発見と驚きの連続だった。世の中には無限の可能性があり、次に何が起こるかは決してわからない。そう気づくことが、この映画から受ける大きな刺激のひとつだと思う」。個人的には最後の最後だけが少々微妙に感じられたものの、映像、ストーリー、俳優と総合的に上質なエンターテインメント作品であることは確か。斬新な映像と物語の謎解きで、猛暑で朦朧としがちな頭をクールにリフレッシュしてみてはいかがだろう。

作品データ

インセプション
公開 2010年7月23日公開
丸の内ピカデリーほか全国ロードショー(7月17、18、19日に先行上映)
丸の内ルーブルほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 2:28
配給 ワーナー・ブラザース映画
監督・脚本・製作 クリストファー・ノーラン
出演 レオナルド・ディカプリオ
渡辺 謙
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット
マリオン・コティヤール
エレン・ペイジ
トム・ハーディー
キリアン・マーフィー
トム・ベレンジャー
マイケル・ケイン
ピート・ポスルスウェイト
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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