人生万歳!

偏屈な物理学者にキュートな家出娘が恋をした?
マンハッタンのカフェや自由の女神を背景に
老いも若きも恋に人生に惑う姿をコミカルに描く

  • 2010/11/12
  • イベント
  • シネマ
人生万歳!© 2009 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

ウディ・アレンが40作目の監督作品で、久しぶりにニューヨークへ帰ってきた! 出演はベテランのコメディアンで俳優のラリー・デヴィッド、若手女優エヴァン・レイチェル・ウッドほか。恋も人生も行き当たりばったり、成り行きまかせで調子っぱずれ。だけどなんだかいとおしい。老いも若きもニューヨークの街で別れたり出会ったり、酔い、惑い、謳歌する姿をコミカルに描く群像劇である。

かつてはノーベル賞候補になりながらも、今はすっかり落ちぶれている偏屈な物理学者ボリス。今日も彼は仲間たちを相手に、カフェでくだを巻いている。ある夜、アパートに帰ろうとしたボリスは、南部の田舎町から家出してきた女の子メロディに泊めてほしいと懇願され、数晩だけという約束で渋々泊める。メロディはバイトを見つけてすっかり居つき、祖父と孫ほどの年の差がありながら、知的で成熟した都会の異性というこれまで周囲にいなかったタイプのボリスを運命の相手と思い込む。そしてある日、2人が暮らす部屋へ田舎にいるはずのメロディの母がいきなり訪問。保守的で口やかましく信心深い母親は、娘に見合う若い男性を見つけようとやっきになる。そこにボリスの友人たちもからみ始め……。

エヴァン・レイチェル・ウッド

シニカルでハッピー、シンプルで軽妙なウディ節で惹きつける作品。際立って洗練された傑作でなくとも、肩の力の抜けたこの感覚が好い、と感じる人も多いはずだ。この作品はアレン監督が’70年代中頃に俳優ゼロ・モステルのために書き下ろしたものの、モステルが他界したためにお蔵入りに。今回はその脚本を自らリライトして発表したそうだ。

デヴィッドは、偏屈でやっかいなのに憎めないボリス役を自然に表現。彼は’89〜’98年に全米で大ヒットしたNBCのコメディ・シリーズ『となりのサインフェルド』を企画して自らも出演していたことでも知られ、アメリカのお茶の間ではおなじみの人物。今も冠番組をもつエミー賞の常連受賞者であり、アメリカを代表する人気コメディアンのひとりとのこと。’87年の『ラジオ・デイズ』、’89年の『ニューヨーク・ストーリー』と2本のアレン作品に端役で出演したことがあり、デヴィッドは本作のオファーを受けた当初も端役だと思い込んでいて、脚本を読み主役だと気づいて驚いた、というエピソードも。ボリスと同居するメロディ役のウッドは、世間知らずなティーンをキュートに演じ、これまでにない魅力が話題に。ウッドは私生活で19歳年上のロック・アーティスト、マリリン・マンソンとの婚約や破局が報道されていたこともあり、ちょっとした生々しさがあるのも面白い。メロディの母役のパトリシア・クラークソン、父役のエド・ベグリー・Jr.などベテラン勢が極端な豹変ぶりで笑わせてくれる。

エヴァン・レイチェル・ウッド、パトリシア・クラークソン

棚から牡丹餅。ひょうたんから駒。禍福はあざなえる縄の如し。何が不幸で何が幸せかなんて、わからないもの。自分では不運と感じた出来事が、思いがけず幸運のきっかけになったりもする。だから気楽にいこうよ、というアレンのメッセージを感じる本作。アレンは語る。「人生には厳しいことばかり起こる。だから、もし自分を幸せにする方法を見つけたのなら、そのチャンスは生かすべきなんだ。周りの人からはおかしく見えるような恋愛関係でも、当事者にとってうまくいくのなら、それはそれで構わない。これは恋愛関係だけじゃなく、人生のほかの要素についても言えることだよね。誰かの権利を侵害したり、傷つけたりするのはよくないことだけど、そうじゃない限りは、社会の伝統から多少ずれていても、気にする必要はない。その人の人生がそれで幸せになるのなら、それでOKなんだよ」。

ラリー・デヴィッド、エヴァン・レイチェル・ウッド

アレンは現在、オーソン・ウィルソンとマリオン・コティヤールが共演する次回監督作『Midnight in Paris』を撮り終えたとのこと。’05年『マッチポイント』、’06年『タロットカード殺人事件』、’07年『ウディ・アレンの夢と犯罪』、’08年『それでも恋するバルセロナ』とヨーロッパを舞台にした4作品を経て本作でニューヨークに戻ったと思ったら、次回作は初の全編パリ撮影で。もうすぐ75歳のバースデイを迎えるアレンの創作意欲はつきることなく、今なおみなぎっているよう。いち観客として、嬉しい限りである。

作品データ

人生万歳!
公開 2010年12月11日公開
恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 1:31
配給 アルバトロス・フィルム
原題 Whatever Works
監督・脚本 ウディ・アレン
出演 ラリー・デヴィッド
エヴァン・レイチェル・ウッド
パトリシア・クラークソン
エド・ベグリーJr.
ヘンリー・カヴィル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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