最後の忠臣蔵

試写で好評を得て、2011年にはアメリカ公開予定
心ならずも生き残った侍の一徹な忠義心と秘めた想い
結ばれてゆく人々の誠心を描く真摯な人間ドラマ

  • 2010/12/10
  • イベント
  • シネマ
最後の忠臣蔵© 2010「最後の忠臣蔵」製作委員会

無念のうちに果てた主君に忠節を尽くす、赤穂浪士四十七士が仇討ちを果たして切腹した“元禄赤穂事件”。その渦中にありながらも生き延びた2人の男の16年後を描く歴史小説を、豪華キャストで映画化。出演は役所広司、佐藤浩市、若手女優の桜庭ななみ、安田成美、伊武雅刀、笈田ヨシ、山本耕史、風吹ジュン、田中邦衛、そして歌舞伎界の大御所の片岡仁左衛門と名優が多数。監督は人気ドラマシリーズ『北の国から』の杉田成道。昔気質の侍の一徹な忠義心と遂げられることのない秘めた想い、各人がそれぞれの誠を尽くすさまをくっきりと描く人間ドラマである。

1703年の赤穂浪士の討入りから16年。全員が切腹したはずの大石内蔵助以下四十七士には唯1人の生き残り、寺坂吉右衛門がいた。大石内蔵助より命を受けた寺坂は討入りの真実を後世に伝え、浪士の遺族を援助するという役目を16年かけて果たす。そして京で行われる四十六士の十七回忌法要に参列すべく、内蔵助の又従兄弟の進藤長保の屋敷へと向かう途中、討入りの前日に逃亡した親友の瀬尾孫左衛門を見かけて追いかけるが見失う。瀬尾は名前を変え武士の身分を捨て、骨董を売買する商人として、凛とした美しい少女の可音に仕えて、ひっそりと暮らしていた。

役所広司、佐藤浩市

皆がそれぞれに己の信念を貫く、哀切な物語。亡き主君より課せられた使命を一途に完遂する寺坂のさまは美学すら感じさせ、心を深く震わせるものがある。原作は池宮彰一郎の時代小説。原作者は本名の池上金男で脚本家として’63年の映画『十三人の刺客』などを手がけて活躍した後、’92年に69歳で時代小説『四十七人の刺客』を発表して小説家・池宮彰一郎としても活動した人物だ。そして本作では、’09年の映画『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』を手がけた脚本家の田中陽造が物語の内容を効果的に脚色。可音を教育したのは老尼ではなく、もと太夫の美しい女性ゆうであり、想い合う可音と孫左の関係と呼応するかのように人形浄瑠璃の演目『曾根崎心中』の映像を暗示的に挿入。ストイックな侍の逸話に加えて、禁忌の愛の物語としても見応えのある仕上がりとなっている。

すべてを見届ける寺坂吉右衛門役は佐藤が実直な風情で好演。主君とその忘れ形見のため、卑怯者という立場に耐え忍んできた瀬尾孫左衛門役は役所がじっくりと表現。役所は長年の悲願が叶う喜びと、身を切られるほどのつらさに惑う孫左の心情を丁寧に表現し、観る側から深い共感を引き出している。役所と佐藤の共演は’06年の『THE有頂天ホテル』の1シーンのみで、今回が初めての本格的な共演であることも注目されている。大石内蔵助の隠し子である可音役は、映画やドラマ、サントリーのCM“なっちゃん”などで知られる桜庭が清楚なイメージで。可音に礼儀作法や芸事を教えるゆう役は安田がしっとりと、京の呉服司である豪商の茶屋四郎次郎役はヨーロッパでの演出活動や舞台『春琴』の出演で知られる笈田が独特の存在感で、そして茶屋家の嫡男の修一郎役に山本耕史、諸国に散った赤穂浪士の遺族のひとりに風吹ジュン、元赤穂浅野家番頭の奥野将監役に田中邦衛、大石内蔵助の又従兄弟の進藤長保役に伊武雅刀が扮し、脇の配役にも隙がない。また大石内蔵助役を片岡仁左衛門が演じ、’98年に十五代目を襲名して以来となる本格的な映画出演も話題に。歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』や『元禄忠臣蔵』でも内蔵助(大星由良之助)を演じ、父である13世片岡仁左衛門に継ぐ“由良之助役者”と称えられているだけに、出演シーンそのものは少なくとも物語に大きな説得力を与えている。

佐藤浩市、片岡仁左衛門

撮影は京都を中心に、多くの重要文化財を所有する大覚寺や小野小町の邸宅跡に建てられた隨心院などにて。また孫左が赤子を抱いて雪をかきわけて進むシーンは滋賀県伊香郡余呉町の雪山で、人形浄瑠璃の上演シーンは香川県仲多度郡琴平町にある1835年に建てられた現存する日本最古の芝居小屋「金丸座」で撮影。美術セットの柱には建築で用いる木材を使い、孫左と可音が暮らす家の竃も本物を作るなどしっかりと作りこまれている。派手さはなくともロケーションや美術セットの嘘のない質感は、日本の伝統文化を静かに伝え、作品そのものの質の高さを物語っている。

役所広司、佐藤浩市

本作はアメリカを拠点とするメジャー映画会社、ワーナー・ブラザース映画が日本の風土や文化をベースに製作するローカル・プロダクションの本格的な第一弾とのこと。日本人の琴線に響く仕上がりに感じ入りながら、海外の人々に古典的な大和魂の機微が理解されるだろうか、という思いもあったものの、アメリカのLAで10月に実施されたプレミア試写会でも大好評を得たとのこと。日本の時代劇で史上初の日米同時公開という発表は、英語版の最後の忠臣蔵の認可がおりずに叶わなかったものの、2011年1月にはアメリカでも公開予定というニュースが届いている。

海外のスタッフ&キャストの製作による東洋趣味がミックスした日本風ではなく、日本国内の時代劇で腕を揮ってきた撮影監督や美術監督、衣装デザイナーが構築した世界観、ベテランの監督と脚本家が命を吹き込んだ邦画、という純日本製の時代劇が世界の人々に発信されることはかなりエキサイティング。時代劇は黒澤明監督作品という不朽の金字塔のみならず、21世紀を生きる現役クリエイターたちの作品でも勝負できるということが、本作で証明されるに違いない。

作品データ

最後の忠臣蔵
公開 2010年12月18日公開
丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 日本
上映時間 2:13
配給 ワーナー・ブラザース映画
原作 池宮彰一郎
監督 杉田成道
脚本 田中陽造
音楽 加古隆
出演 役所広司
佐藤浩市
桜庭ななみ
安田成美
伊武雅刀
笈田ヨシ
山本耕史
風吹ジュン
田中邦衛
片岡仁左衛門
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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