ヒア アフター

イーストウッド×スピルバーグのタッグふたたび
スピリチュアルな資質や体験をふまえて
孤独や疎外感を超えて希望を見出す人々を描く

  • 2011/02/10
  • イベント
  • シネマ
ヒア アフター© 2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

クリント・イーストウッド監督・製作・音楽、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮による“スピリチュアル”をテーマに描く人間ドラマ。出演は人気・実力ともにそなえるマット・デイモン、’02年の映画『スパニッシュ・アパートメント』で注目されたベルギー出身の女優セシル・ドゥ・フランス、100組以上の双子からオーディションで選ばれたジョージ&フランキー・マクラレンほか。霊能者の男、臨死体験をした女性、死者との絆を求める少年、交錯する3人の運命とその行方は? スピリチュアルな資質や体験をふまえて、孤独や疎外感を超えて希望を見出す人々を描くドラマである。

フランスでニュースキャスターやジャーナリストとして活躍するマリーは、休暇に恋人と訪れた東南アジアで津波にのまれて仮死状態に陥るが、一命をとりとめる。帰国後、その時に体験した不思議な感覚により、以前の自分とは変わってしまったことに戸惑う。アメリカのサンフランシスコの工場で働くジョージは、以前は霊能力者として本の出版などメディアでもてはやされたが、その活動に疲れ果て、今は一般人としてひっそりと暮らしている。イギリスで薬物依存から抜けられない母を支えて暮らす少年マーカスは、突然の交通事故で双子の兄を亡くす。母と隔離され里親に預けられたマーカスは、「兄と話したい」という思いにとりつかれ、霊能力者をひたむきに探し続ける。

セシル・ドゥ・フランス

クリント・イーストウッド監督×スティーブン・スピルバーグ、『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』のタッグがふたたび。期待に満ちて観たせいもあるのか、スピリチュアルな要素とスピルバーグらしいエンターテインメントの要素がちぐはぐで、しっくりこない面もある。単純にわかりやすくまとめられすぎているのは、“スピリチュアル”にアレルギーのある大勢の人々にも楽しめるように、という配慮からだろうか。本作はそもそも、脚本と製作総指揮を手がけるピーター・モーガンが大切な友人を突然の事故で亡くした後、映画化などの目的もなく書きあげた脚本が始まりに。モーガンがスピルバーグほか製作スタッフと別の映画に取り組んでいた際に、何年もしまわれたままの“死にまつわるストーリー”の話になり、脚本を読んだスピルバーグが「誰が監督すべきか、はっきりしているよ。クリントだ」と言い、イーストウッドも脚本を読んで快諾した、という流れがあったとのこと。霊的なことをテーマにする場合、作り手に体感や理解がないと難しい。モーガンの脚本×イーストウッド監督というシンプルなスタッフだったら、ひとつの小さな街で起こった出来事が精神的に壮大に広がる、という仕組みになったのでは……と思ったりするも、それは想像にすぎない。

死者の声を聞くジョージを演じたデイモンは、イーストウッドからモーガンの脚本の主演をオファーされ、ほかの映画とスケジュールが重なっていたもののギリギリの調整をかけて出演。抑えた演技で、特殊な能力をもつ人生と向き合う男を表現している。フランス人ジャーナリストのマリーを演じたフランスは、臨死体験によって現実主義だった以前の自分に違和感をもつようになるキャリアウーマンを繊細に好演。津波のシーンでは水の渦の中で翻弄されるシーンも体当たりで演じている。イギリスで暮らすジェイソンとマーカス双子の兄弟を演じたのは、これまでは舞台経験のみ、映画は今回が初出演となる12歳のジョージ&フランキー・マクラレン。2人ともジェイソンとマーカスの両方を演じたそうで、片割れを亡くした喪失感と絶望、焦りを等身大で表している。

ジョージ&フランキー・マクラレン

撮影はロンドン、パリ、サンフランシスコ、マウイ島とヨーロッパからアメリカにかけて広いエリアにて。マウイ島の町ラハイナのビーチから始まり、パリの洗練されたアパートメントやレストラン、サンフランシスコの実用的な建物やインテリア、ロンドンの労働者階級が暮らす公営団地など、各エリアの様子が物語の要素として生かされている。マリーがホスピスを訪ねるシーンでは、フレンチ・アルプスに臨む渓谷の町シャモニーが清澄な雰囲気だ。イギリスではビクトリア朝を代表する作家チャールズ・ディケンズ博物館の撮影が許諾され、ジョージがツアーで訪れるシーンに。ディケンズが実際に住んだ場所で、彼の描いた絵も映し出され、ジョージの心の共鳴がおだやかに伝わってくる。またロンドンの北にあるアレクサンドラ・パレスを会場にしたブックフェアのシーンでは、実際に出版業者が集められてブースを設置した、というユニークなエピソードも。

マット・デイモン

サウンドトラックはいつものようにイーストウッドが担当。なかでも自身が作曲したノスタルジックなテーマ曲は、ギターをつまびく音とピアノのシンプルなメロディがゆったりと重なり、やさしく沁み渡る。イーストウッドは語る。「死後の世界があるかどうか、真実は誰にも分からない。ただ、人は誰も与えられた人生を精一杯生きるべきだと、僕は常に信じている」。誰にでも人生が変わるきっかけがあり、理解され、支え合える関係を見つけることができる。そんなシンプルなメッセージを伝える作品である。

作品データ

ヒア アフター
公開 2011年2月19日公開
TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 2:09
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 HEREAFTER
監督・製作・音楽 クリント・イーストウッド
脚本・製作総指揮 ピーター・モーガン
製作総指揮 スティーブン・スピルバーグほか
出演 マット・デイモン
セシル・ドゥ・フランス
ジョージ&フランキー・マクラレン
ブライス・ダラス・ハワード
ジェイ・モーア
マルト・ケラー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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