英国王のスピーチ

吃音に悩んだ英国王ジョージ6世の感動秘話
スピーチ矯正の専門家と気丈な妻に支えられ、
誠実な王となる姿を映す、味わい深い人間ドラマ

  • 2011/02/18
  • イベント
  • シネマ
英国王のスピーチ© 2010 See-Saw Films. All rights reserved.

第83回アカデミー賞®にて、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞ほか最多12部門のノミネートを受けた話題作。出演は演技派俳優が顔をそろえ、コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーターほか。監督はTVシリーズの監督としてキャリアを積み、’05年の『エリザベス1世〜愛と陰謀の王宮〜』にてエミー賞とゴールデン・グローブ賞を受賞し、本作が劇場映画3作目となるトム・フーパー。吃音に悩む国王が型破りなスピーチ矯正の専門家と出会い、衝突しながらも信頼関係を築き上げ、英国王としての重責を担ってゆく姿を描く。現エリザベス女王の父、1936年に即位したジョージ6世の実話に基づく人間ドラマである。

イギリス国王ジョージ5世の次男であるヨーク公は、しっかり者の妻エリザベスと2人の娘とともに平穏に暮らし、日々の公務を務めている。ただ子供の頃から内気で、人前で流暢に話すことのできない吃音に悩まされていた。一流の言語聴覚士からさまざまな治療を受けても彼の吃音は治らず、妻はスピーチ矯正の専門家ライオネルに夫の指導を依頼する。後日、オーストラリア人の平民であるライオネルは診療室でヨーク公に会うと、対等な立場を主張して立ち入った質問をし、ヨーク公は怒って退室。が、彼の指導に確かな成果があるとわかり、ヨーク公はライオネルの指導を受けることになる。続けるうちにヨーク公の吃音が徐々に改善されてゆく中、父ジョージ5世が他界し、即位した兄エドワード8世は離婚歴のあるアメリカ人女性との結婚を選び、王位を退くことに。ヨーク公は突然ジョージ6世として、イギリス国王の座を引き継ぐことになる。

ヘレナ・ボナム=カーター、コリン・ファース

イギリス王室の“王冠を賭けた恋”として知られるエドワード8世のはなやかなエピソードの裏で、突然の王位継承や第二次世界大戦など大変な局面に対峙した弟王ジョージ6世。彼と彼を支えた人たちとの交流や絆、重責を引き受けて精神的に成熟してゆく英国王の姿を静かに描く。身分を超えた男同士の風変わりな友情や、生真面目な英国王が長年の吃音に立ち向かい、苦闘する姿が飄々と描かれている。

そもそも本作は、ライオネルを演じるラッシュの暮らすオーストラリアの自宅の玄関に置かれた、『英国王のスピーチ』の演劇の脚本から始まったとのこと。ラッシュの出演を望むイギリス人プロデューサーが、たまたまラッシュ宅の近くに住んでいる親友に脚本を届けてもらったそう。それを受け取ったラッシュは、舞台出演はスケジュール的にできないものの、その内容に魅せられ、映画版の脚本を執筆するように提案したという。同じ頃、イギリス人の父とオーストラリア人の母をもつフーパー監督はイギリスにて、本作の演劇版の脚本朗読会に、オーストラリア人女性として招かれた母親から、映画化を強く勧めたられたそうだ。親密な関係にあるイギリスとオーストラリアの両国で、同時期に映画化の話が持ち上がり、一緒に作ることになった、という経緯もユニークだ。また、もともとライオネルの公的な記録はほとんどなかったものの、撮影2ヶ月前にスタッフがライオネルの孫をロンドンで探し当て、当時の日記や手帳、診察記録などの資料を提供してもらえたとのこと。そこからライオネル本人のユーモアや人柄、その時代にしては急進的な療法をしていたことがわかり、資料に基づいて脚本の書き直しに着手。ラッシュの役作りもその資料を参考に、本物に近づけるように行われたそうだ。

コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ

アカデミー賞のノミネートを主要キャスト3人全員が受けた本作は、演技派俳優の共演が大きな見どころ。ヨーク公ことジョージ6世を演じたファースは、吃音の克服に励み、オーストラリア人のライオネルと信頼を築く英国王を好演。やんごとない生まれゆえに尊大でわがままでも、責任感が強く自身の立場が成すべきことに誠実に向き合う、という味のあるキャラクターを丁寧に表現している。スピーチ矯正の専門家ライオネルを演じたラッシュは、明確な信念と生来の明るく健全な性分でジョージ6世を指導する姿を人間味たっぷりに表現し、深みのある演技を披露している。またジョージ6世の妻エリザベスを演じたカーターは、内気な夫を献身的に支える気丈な妻の役が雰囲気にぴったり。彼女はそもそも実際に曾祖父が元英国首相のハーバート・ヘンリー・アスキスで政治家を身内にもつ、イギリスの上流階級の出身であるという背景も。また王位を退く兄エドワード8世役にガイ・ピアース、厳格な父ジョージ5世役にハリーポッターシリーズのマイケル・ガンボンと脇にも実力派がそろっている。

コリン・ファース

すでに本国イギリスと全米で公開され、大ヒットしている本作。ジョージ6世の娘である現エリザベス女王は当初、“吃音に悩む王の物語”であることからこの映画は「観ない」と発言していたものの、世界的に高い評判を得ていることからか映画を鑑賞し、“お気に召した”ということが、アメリカの配給会社から公式に発表されている。現エリザベス女王は2012年に即位60周年を迎え、ジョージ6世の曾孫であるウィリアム王子は近ごろ婚約を発表、と祝い事が続くイギリス王室。めでたい勢いにのって、アメリカのアカデミー賞®でも、イギリス×オーストラリア映画が主要部門を獲得なるか? 賞レースの行方にも注目したい。

作品データ

英国王のスピーチ
公開 2011年2月26日公開
TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 イギリス×オーストラリア合作
上映時間 1:58
配給 ギャガ
原題 King's speech
監督 トム・フーパー
脚本 デヴィッド・サイドラー
出演 コリン・ファース
ジェフリー・ラッシュ
ヘレナ・ボナム=カーター
ガイ・ピアース
マイケル・ガンボン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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