ソフィア・コッポラのオリジナル作品に父と兄が参加
ハリウッドの伝説的ホテルを舞台に父娘の休日を描く
練り上げられた映像と選曲で魅せるパーソナルな作品
「すべてが私のことではないけれど、私の子供時代に由来する要素もいくつかある」。監督・脚本・製作ソフィア・コッポラ、製作総指揮に父フランシス・フォード・コッポラ、製作に兄ローマン・コッポラが参加。出演は’94年の『バック・ビート』や’98年の『ブレイド』などインディーズ作品の出演で知られるスティーヴン・ドーフ、ダコタ・ファニングの実妹である人気子役エル・ファニングほか。ウエスト・ハリウッドに実際にあるセレブ御用達のホテル「シャトー・マーモント」を舞台に、ハリウッドスターの父と思春期の娘が過ごす休日をゆったりと描く。父娘のプライベートをそっと眺めているかのような、とてもパーソナルな作品である。
フェラーリを乗り回し、ハリウッドにある伝説的なホテルで暮らしている映画スター、ジョニー・マルコ。パーティに酒に女にひとりで気ままに過ごすなか、ある日、前妻と一緒に暮らしているはずの11歳の娘クレオが不意に現れる。その日はクレオを夜まで預かり家まで送り届けたものの、後日に再びクレオがジョニーのもとへ。前妻レイラの都合でクレオがキャンプに行くまでの間、ジョニーはクレオと一緒に暮らすことになる。クレオはパパとの夏休みを無邪気に喜び、ジョニーは父親として過ごすことに居心地の良さと悪さの両方を感じながら、2人の時間は過ぎてゆく。
舞台はハリウッドの有名ホテル、主人公は映画スターというメジャーな設定のアメリカ映画ながら、ヨーロッパの小品のようなニュアンス。静かににきらめく湖のような、ほどよく光の差し込む森のような、おだやかな作品だ。ソフィアはクレオのキャラクターについて、モデルはほかにいるものの、「人々を惹きつけるパワフルな父親をもった、私自身の記憶にもインスパイアされています」とコメントしている。
ジョニー役のドーフは、俳優として成功していながら空虚な毎日を送る男を自然体で表現。クレオ役のファニングは、思春期の少女の愛らしさとあやうさをみずみずしく好演。ソフィア・コッポラ作品の女の子らしく、透明感がありアンニュイで気まぐれ、光と影の両面をもつ少女をとても魅力的に演じている。ファニングがプロから6週間の集中レッスンを受けたというフィギュア・スケートのシーンも、軽やかでキレイだ。ジョニーの友人サミー役のクリス・ポンティアスは、人気リアリティ番組『ジャッカス』の出演でアメリカでは知られている俳優。撮影では即興のセリフが多かったそうで、シャトーでのシーンを楽しげに盛り上げている。
「子供の頃、父がいろいろな場所で撮影をする時、一緒に行ってよくホテルに泊まりました。ホテルの中は独自の世界になっているからおもしろかった」と語るソフィア。本作のもうひとつの主役は、映画でこれだけ長時間スクリーンに登場するのは今回が初めて、というホテル「シャトー・マーモント」だ。通常は撮影の許可を取ることすら難しいそうだが、ソフィアがホテルのオーナーに直接交渉し、撮影で3週間、5階フロアを丸ごと借り切ることを実現。“シャトーが特別な場所だと深く理解していること、それがきちんと映画に反映されること”という信頼を、ソフィアがホテルのオーナーから得られたという。
オリジナルでありながら、ノスタルジック。ソフィアの映画の大きな魅力は、音楽と映像によって練り上げられる世界観だ。今回は撮影前にソフィアがストーリーを伝える画像を集めて一冊の本にまとめ、それを関係者に渡して作品全体の視覚デザインを作り上げていったとのこと。音楽はささやくようなヴォーカルと電子ピアノのみのザ・ストロークスのシンプルな曲「I'll Try Anything Once」がジョニーとクレオがプールで遊ぶシーンで、エルヴィス・プレスリーの「Teddy Bear」はホテルのスタッフ、ロムロがギターで弾き語りをするシーンで効果的に使われている。ロムロは実際に「シャトー・マーモント」で働いているスタッフで、ソフィアは幼い頃に父とこのホテルで過ごした時に、この歌を彼に歌ってもらったことがあるそう。こんな素敵なエピソードを普通にもっているあたり、さすがコッポラ父娘、と妙に感心してしまう。
2010年の第67回ヴェネチア国際映画祭にて金獅子賞(コンペティション部門のグランプリ)を受賞し、審査委員長のクエンティン・タランティーノから「審査員の満場一致で決定した」と言わしめた本作。2004年の第76回アカデミー賞にて脚本賞を受賞した映画『ロスト・イン・トランスレーション』に次いで、オリジナルの脚本を映画化した2作目であることから、より私的なものになっている、とソフィアは語る。「舞台は現代のハリウッドですが、家族や個人の危機という普遍的なテーマを描いているので、誰もが共感できるはず。ドラマティックでなくともふとした些細なことから気付く……それでいいんです。映画を観終わった時に、希望を感じてもらえれば嬉しいですね」。父と娘がくつろぐ夏の日は、それぞれの懐かしい思い出やほのかな記憶にリンクして、意識は彼方へと飛んでいく。ここではないどこかへ。
公開 | 2011年4月2日公開 新宿ピカデリーほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2010年 アメリカ |
上映時間 | 1:38 |
配給 | 東北新社 |
原題 | SOMEWHERE |
監督・脚本・製作 | ソフィア・コッポラ |
製作 | ローマン・コッポラほか |
製作総指揮 | フランシス・フォード・コッポラほか |
出演 | スティーヴン・ドーフ エル・ファニング クリス・ポンティアス |
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