マイ・バック・ページ

妻夫木 聡×松山ケンイチ初共演
若い記者は活動家を名乗る男に何を見たのか
山下敦弘監督が実在の事件をもとに描く人間ドラマ

  • 2011/05/31
  • イベント
  • シネマ
マイ・バック・ページ© 2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会

妻夫木 聡と松山ケンイチの初共演による、実在の事件をもとに描く人間ドラマ。共演に忽那汐里、中村蒼、長塚圭史、山内圭哉、三浦友和ほか。監督は’05年の映画『リンダ リンダ リンダ』や’07年の映画『天然コケッコー』の山下敦弘、原作は評論家の川本三郎による自伝的エッセイ『マイ・バック・ページ‐ある60年代の物語』。1969年〜1972年の社会情勢を背景に、青年記者の沢田が急進的な活動団体を名乗る取材対象者Kに入れ込んでいく様を描く。混沌とした時代を生きる青年の姿を追う物語である。

世界では長引くベトナム戦争に対して反戦が訴えられ、日本では各大学で結成された全学共闘会議の活動が激化していた1969年。東京大学を卒業し、ジャーナリストに憧れて新聞社に入社した沢田は、週刊誌の編集記者に。新人としてさまざまな業務をしながら、ジャーナリストとして本格的な記事を書きたいと考えていた。それから2年後、沢田は先輩記者の中平とともに、ある活動団体の幹部で梅山と名乗る男から接触を受ける。沢田はそこはかとない不信感を抱きながらも、『宮沢賢治論』を読み、ギターでCCRの「雨を見たかい」を弾き語る梅山に親しみを覚える。そしてある朝、“駐屯地で自衛官殺害”のニュースが報じられ、現場には梅山が準備していた“赤邦軍”のヘルメットが残されていた。

妻夫木 聡

正否を問うことや、関係者の責任を追及することではなく、当時の時代性とそこで必死に生きる青年を描くことを目的とした作品。原作『マイ・バック・ページ‐ある60年代の物語』より、最後の部分にあたる〔逮捕までT〕〔逮捕までU〕〔逮捕そして解雇〕を中心に映像化。原作の重要なテーマはジャーナリストとして重要な理念“取材上知り得た情報の秘匿”にあるが、映画ではその時代を生きる青年のドラマがメインに。また原作はノンフィクションだが、映画ではフィクションであると明記。主人公の沢田をはじめ、実在する人物の名前もすべて登場人物として違う名前に差し替えられている。なるべく原作に沿いながらも設定や状況は少し手を加えられ、最後には人間ドラマとして救いを添えている。

事件に巻き込まれてゆく記者の沢田役は妻夫木が真摯に、過激派の組織を名乗る梅山こと片桐役は松山が狂信的に表現。現代の若い世代が積極的に興味をもつテーマではないだけに、2人の俳優としての確かな力量と魅力で観客を物語に引き込むところがわかりやすい。週刊誌の表紙モデルの高校生、倉田眞子役は忽那汐里が、片桐の一派として石橋杏奈、韓英恵、中村蒼、東大全共闘議長の唐谷役に長塚圭史、京大全共闘議長の前園役に山内圭哉、先輩記者の中平役に古館寛治、新聞社のデスク飯島役にあがた森魚、新聞社の社会部部長の白石役に三浦友和と、若手からベテランまでよく練られた配役となっている。

松山ケンイチ

原作は1986年〜’87年に雑誌『SWITCH』で連載されたエッセイを、’88に単行本として出版。原作にはいち記者としての経験や体感について、映画や音楽など当時のカルチャーを織り交ぜながら書かれている。“取材源の秘匿”や先輩記者からの指導など、編集やライティングの業務をしている人間にとって、身にしみることが多々ある内容だ。そもそも’60年代のカルチャーや社会背景をさらりと書くつもりで連載を進めるうちに、’72年の事件に触れざるを得なくなったとも。原作者のあとがきに、“事件のことを書くのはつらかったが、編集者や読者に励まされ、本ができるまでの過程は幸せだった”とあることにホッとさせられる。事件当時27歳で現在66歳の川本氏は今回の映画化について、「<略>全共闘のスローガンに“連帯を求めて孤立を恐れず”があった。事件のあと長く“孤立”の思いが強かった。いま、この映画を見て、はじめてこの映画の製作過程には、あの頃に夢見た“連帯”があるのだと心が震えた」と記している。

妻夫木 聡、松山ケンイチ

安易に白黒がつけられることではなく、真剣に生きている人ほど身につまされるだろう本作。1959年にキューバ革命が成立し、’67年に処刑された革命家チェ・ゲバラことエルネスト・ゲバラの活動が広く知られていた当時。今よりもっと若い世代に、“何かを成し得なくてはならない”という強い思いがあったのかもしれない。映画のエンディングには、マイ・バック・ページに通じるボブ・ディランの曲「My Back Pages」のカヴァーを、真心ブラザーズ+奥田民生の初コラボで。“善と悪を疑いもなく定義していた”と、ボブ・ディランが自身の若い頃を振り返ったともいわれるこの楽曲。今回はどこか前向きで軽やかなビートにアレンジされ、「I was so much older then, I’m younger than that now/あのころの僕より今のほうがずっと若いさ」と英語と日本語の両方で歌っている。どんなことがあっても人生は続いてゆく。Life goes on. それでいいじゃないか。という後味に、関わった大勢のスタッフやキャストたちのあたたかな“情”をしみじみと感じた。

作品データ

マイ・バック・ページ
公開 2011年5月28日公開
新宿ピカデリーほか全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 日本
上映時間 2:21
配給 アスミック・エース
監督 山下敦弘
脚本 向井康介
原作 川本三郎
出演 妻夫木 聡
松山ケンイチ
忽那汐里
石橋杏奈
韓英恵
中村蒼
長塚圭史
山内圭哉
古館寛治
あがた森魚
三浦友和
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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