水曜日のエミリア

互いに支え、影響を与え合い、新たなステップを踏み出す
人が生きていくための救いと結びつきを丁寧に描く
ほろ苦くやさしさが沁みるヒューマンドラマ

  • 2011/07/01
  • イベント
  • シネマ
水曜日のエミリア© 2009 INCENTIVE FILM PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED

ナタリー・ポートマンが脚本に惚れ込み、主演・製作総指揮を務めた作品。出演はポートマン、アメリカのTVドラマ『フレンズ』で知られ、本作の製作総指揮としても名を連ねるリサ・クドロー、TVや映画で活躍するスコット・コーエン、’10年の映画『きみがくれた未来』の子役チャーリー・ターハンほか。監督・脚本は’00年の映画『偶然の恋人』のドン・ルース。現代のニューヨークで働くひとりの女性のリアルな恋愛や生活から、人や自分を受け入れること、家族の結びつきについて淡々と描く。派手さはなくとも胸に響く“核”がある、良質な人間ドラマである。

エミリアは毎週水曜日、夫ジャックと前妻の息子である8歳のウィリアムを学校へ迎えに行く。“ママからパパを奪った”エミリアにウィリアムは反発して心を閉ざし、エミリアは出産した自分の娘が3日で突然死したことから、ずっと立ち直ることができずにいる。そもそもエミリアはハーバード大学を卒業し、ニューヨークで新人弁護士として働くエリート。既婚者の上司ジャックと恋に落ちて、彼の離婚が成立した後に結婚。幸せな生活が始まるはずが、“略奪女”として周囲から孤立し、愛娘を亡くし、夫の前妻で小児科医のキャロリンからは子育てについて何かとプレッシャーをかけられ、何もかもがうまくいかない。エミリアは自分の母親ともケンカし、夫ジャックの心も次第に離れていくように。ある日エミリアは、心に秘めてきた重要な出来事をジャックに告白する。

スコット・コーエン、ナタリー・ポートマン

’11年のアカデミー賞でオスカーを獲得した『ブラック・スワン』、4月に日本で公開された『抱きたいカンケイ』、現在公開中の『メタルヘッド』、7月2日に日本公開の『マイティ・ソー』と、ポートマン出演作の日本公開が続く中、’09年の製作から2年後の日本公開であり、一見すると一番地味な内容である本作。個人的には、上記の作品すべての中で一番心を動かされた作品だ。日本ではミニシアターでの限られた上映であるものの、作品の内容が評価されて東京の上映が2館に拡大した、という流れも頷ける。誰もがそれぞれに苦しみを抱え、失敗してもあきらめず、人を愛して、傷つきながらも進んでゆく。そしていつの間にか結ばれてゆく確かな絆。人と人が関わり合うことについて、ほろ苦くやさしく、丁寧に描かれている。

ポートマンはエミリア役を自然体で表現。普段着で生活の疲れや焦燥を帯び、都市で暮らすひとりの女性としてのリアリティを感じさせる。子育ての細部までこだわり抜く小児科医のキャロリン役はクドローがヒステリックに演じ、エミリアを理解して支えようと心を砕く夫のジャック役はコーエンが実直に好演。両親の離婚後、実母キャロリンと義母エミリアとの間を行き来し、不安を抱えて反発するウィリアム役の複雑な感情をターハンがしっかりと表現している。

ポートマンが男児を出産、という一報が6月14日にアメリカの雑誌『ピープル』から伝えられ、ポートマンからの正式な発表が待たれる今。出産後の彼女の活動は気になるところだ。その前に、今年4月に全米で公開されたポートマン主演のコメディ映画『Your Highness』があるものの、日本では公開未定。これは彼女の高尚なイメージが崩れてファンにウケが悪そうな(興行収入も期待できないかもしれない)作品だからだろうか。それともどこが配給するか、水面下で進行中なのだろうか。何でもアリでどれだけバカをやっても、演技派女優としてゆるぎない、というポートマンのスタンスは格好よいと思うものの、作品そのものの評価と観客動員はごくシンプルであることもよくわかるので、どうなることやら。

ナタリー・ポートマン、チャーリー・ターハン、リサ・クドロー、スコット・コーエン

この映画の原作は、カリフォルニア在住の女性作家アイアレット・ウォルドマンの小説『Love and Other Impossible Pursuits』。ウォルドマンはイスラエルのエルサレムで生まれ、カナダとアメリカで育ち、ハーバード・ロー・スクールを卒業後、カリフォルニアで官選弁護人に。そして3年間務めた後、主婦業のかたわら執筆活動を開始し、小説やエッセイの分野で活躍。育児と結婚生活に関する発言でも注目されている人物だ。生まれた場所やハーバードで学んだこと、おそらくユダヤ系アメリカ人であることなど、ポートマンと共通する部分も多い。ウォルドマンは原作と映画化について、「原作では深い悲しみが人生にもたらす影響を表現したかった。私たちは自分を見失ったりするでしょう? それと愛と責任について深く追求したかったの。映画はすばらしかった。とてもリアルで真実がある。私が望んでいたすべてが形になっていた!」と語っている。

ナタリー・ポートマン

家族のつながりや男女の心理を濃やかに描くことで知られるドン・ルースの監督と脚本に加え、ポートマンとクドローというアメリカで働く自立した女優2人が製作総指揮を手がけたことから、都市で働く大人の女性に確かな共感を引き出す本作。心が目詰まりを起こしているような時、涙で洗い流してくれるかのような、じんわりと沁みるヒューマンドラマである。

作品データ

水曜日のエミリア
公開 2011年7月2日公開
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 1:42
配給 日活
脚本・監督 ドン・ルース
原作 アイアレット・ウォルドマン
出演 ナタリー・ポートマン
スコット・コーエン
チャーリー・ターハン
リサ・クドロー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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